中小企業のための「生産性向上」実践プチ講座~生産性向上に向けて、まずやるべきこと~

2023年04月10日

近年、労働人口の減少や、働き方改革による一人あたりの労働時間の減少、働き方に対する考え方の多様化など、働き手の環境は大きく変化しています。
その中で、業績を上げていくためには、あらゆる業界・業種での「生産性向上」への取り組みが急務となっています。

しかしながら企業規模や業種などによって、その進み方はさまざまで、特に中小企業は後れを取っている傾向があります。

そこで今回は、「生産性向上」について、スムーズに取り組むためのステップや気を付けるポイントなどを、まとめてお伝えします

■実は、企業人事とも関係が深い「生産性」

生産性とは、時間あたりにどれくらい成果を上げることができるかという指標のことです。

生産性を高めていくためには、

  • たくさんの商品を作り出し生産量を上げていくこと
  • 生産のために投入する時間や人員などをより効率化すること

などの、いずれか、もしくは両面で行うことが必要となります。
このためのアプローチの仕方は企業の状況や戦略により様々です。

生産性向上のためのツールを活用することも、取り組みの一つと考えられますが

  • 採用活動の見直しによる多様な人材の確保
  • 人事制度の見直しによる現状の人材の能力の活用最大化・最適化
  • 研修などの導入による、人材の意識改革

など、人材を有効に活用することで、「生産性向上」につながるため「企業人事」にも関係の強いテーマなのです。

生産性を把握するための指標はさまざまなものがあり、それぞれで求める式が異なりますが、
このコラムでは、イメージをしやすくするため「生産量(非製造業ではサービス)÷生産にかけた時間」と表現しています。

■無視できなくなってきている「生産性向上」への取り組み

特に近年、生産性向上が深刻な企業課題となっている理由は国内労働人口減少に伴う人手不足が一番でしょう。

次の図は「従業員数過不足数DI」を示したものです。
この「従業員数過不足数DI」とは、従業員の今期の状況について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%) を引いたものを示しています。

この調査結果を見るとわかるように、コロナによる景気不透明の時期を除いて従業員は慢性的な不足状態です。
労働人口が減少する中で、業績維持・向上を実現するには、1人あたりの生産性を向上させることが必要不可欠です。

また、「働き方改革」が推進され、残業という手段も難しくなっています。
加えて、転職が当たり前の時代になり人材定着も難しくなりつつあります。
このような環境下で生産性の向上は無視できないテーマになっています。

■大企業に後れをとりがちな中小企業の現状

次の図は企業規模と業種による労働生産性の違いを調査したデータです。
これによると、「中小企業の労働生産性 < 大企業における労働生産性」という結果が明らかとなっています。

このデータを見ると、「人対人」で付加価値を提供しているサービス業など業種は、企業規模による労働生産性の差が小さいものの、建設業・製造業・情報通信業などでは、大企業と中小企業の労働生産性は2倍程度の差があります
差の大きさの違いはあるものの、いずれの業種でも大企業ほど労働生産性が高いことがわかります。

これにはさまざまな要因がありますが、大企業ほど労働生産性を高めるために資本力を活かした設備投資やイノベーションが活発ということも一因です。
DXなどIT技術を駆使した大幅な業務の改善に取り組む企業が増加し、AIやロボットにより人が介在することを限りなくゼロに近づける企業事例も目立って増えてきました。
大企業もグローバル環境のなかで生き残りをかけた戦略として、業務改善の専門部署や人材を抱えて急速に取り組みを進めています。

反対に中小企業では、まだまだ1人の社員がカバーする業務の範囲が広く、その改善も個人単位で委ねられていることも少なくないことから、業務が属人化しており、企業としての労働生産性の向上に直結していないと考えられます。

しかしながら、このように優位性を持つ大企業ともシェアを賭けた経営活動を行っていかなければなりません。
つまり、中小企業における「生産性向上」への取り組みは、喫緊の経営課題なのです。
実際に、多くの中小企業でも生産性向上が経営課題として事業戦略に組み込まれ、社内で推進部署やプロジェクトが立ち上がったり、 様々な取り組み施策を行う会社が増えてきています。

ところが、実際には生産性の向上につながっていないというのが実態です。
ではなぜ生産性向上が社内で進まないのでしょうか?

 

■「理想≠現実」直面しがちな2つの状況

ここで、一般的な「生産性向上」のための取り組みのフローを紹介します。
以下のフローのようにサイクルを回していくのが理想です。

しかし、この過程の中で多くの企業が直面しがちな2つの状況があります。

1.実際に取り組む現場サイドからの協力が得られない
2.現場サイドの協力は得られているが成果が出ていない

では、それぞれの状況と原因について深堀りしていきましょう。

1.実際に取り組む現場サイドからの協力が得られない

「実際に取り組む現場サイドからの協力が得られない」という状況が引き起こされる原因としては、

  • 問題意識がバラバラで、生産性向上に取り組む「目的」や「目標」の理解浸透が進んでいない
  • 「目的」「目標」は共有されているが、現場の現状との乖離が大きく、社員から共感が得られない

などが考えられます。
これはフローの【1】の部分、取組みの前提にあたる「目的」「目標」などの設定・浸透に問題があるパターンです。

「とにかく生産性向上!」というキーワードだけが独り歩きし、とりあえず実施した場合に陥りがちな問題です。
生産性向上はあくまで手段のはずなのに、気づけばそれが目的となり、とにかく実施することを優先していませんか?
まずは「本当に自社で実現したいこと」から考え直す必要があります。

上記のような取り組み方だと、取り組む従業員としても、「なぜ生産性向上に取り組むのか」「自分たちにメリットがあるのか」といった疑問が生じ、 現状の業務を優先して、そもそもの目的を見失う可能性があります。

2.現場サイドの協力は得られているが成果が出ていない

「現場サイドの協力は得られているが成果が出ていない」という状況が引き起こされる原因としては、

  • 現場が忙しく、生産性向上に向けた活動に時間を割くことができない(環境の問題)
  • 進め方が部署・個人に依存しており、十分なノウハウがない(スキル・人材の問題)

などが考えられます。

こちらはそもそも、生産性向上に取り組む準備が整っていない状況です。
具体的には、生産性向上を行う上で「適任者がいない」「実施できる環境ではない」状況です。
つまりフロー上の【2】や【3】の分析や検討が不足した状態で、【4】に着手していると、後になって発生しやすい問題です。

原因は、多くの中小企業では1人あたりの業務量に偏りがあるためです。
結果、「生産性向上の新たな取り組みを行う余裕がない」「長期的には生産性向上は必要だが、目の前の業務をこなすことで精一杯」という状況になります。
大企業のように生産性向上を推進する専門的な部署・人材を確保することができる状況ではないのです。

生産性向上に向けて目的や必要性の理解があるが、上記のような問題から十分に取り組むことができない状態が続くと、現場でのフラストレーションを蓄積させることになり、同様に折角の取り組みが悪影響に繋がるかもしれません。

このように生産性向上への取り組みといっても、様々な問題によって多くの企業でのお困りごとの種になっています
今回お伝えしてきた内容は、取り組みに着手する序盤で歪みを生む要素になる可能性があり、早い段階で手を打つことが重要です。

■2つの状況を打開する3つの運用ポイント

このようなつまづきがちな2つの状況を踏まえて、生産性向上への取り組みを効果的に運用するための3つのポイントをお伝えしたいと思います。
1.生産性を上げる目的や目標を徹底的に議論した上で設定する

 「なぜ生産性を向上する必要があるのか?」「生産性向上することで、何を実現したいのか?」「いつまでにどのような成果を目指すのか」などを議論し、問題意識や実現したいことを関係者全員に揃えることができるよう戦略・方針に落としていく必要があります。

 目的意識が揃っていることで指示の浸透も早くなり、結果的に組織として施策を実施するサイクルも早くなります。

2.生産性向上に向けた取組方針を社内へ浸透・共感を得る

「実現をすることでどう変化があるか」「なぜ今取り組む必要があるのか」など、取り組むメリットや将来的なビジョン、実施手段などを  個人レベルまで噛み砕いた上で周知できる状態を目指すのが好ましいです。

各個人があるべき姿を明確に持つことで、自発的に現状の問題点や改善のアイデアが出てきやすくなります。

3.取り組みの支障になる要因を特定し取り除く

思い描く成果に結びついていかない場合、「意識の問題」「環境の問題」「スキルの問題」といった切り分けを行いながら 、要因を取り除くための方策を検討する必要があります。

生産性向上に取り組む上での課題を明確にし、解決することで、持続的な取り組みとして継続することができるようになります。
ここは冒頭にお伝えしたように、人事部門とも協力しながら「多様な人材の確保」「人材教育の実施」なども組み合わせることをお勧めします。
また、専門的なノウハウのある人材を採用することが難しい場合は、社内人材の育成や外部協力者への要請などを検討することも手段の一つです。

今回のコラムではここまで生産性向上に向けて、特につまづきやすいポイントを中心にお伝えしてきました。

キャリアプランニングの公開講座では、生産性向上への課題をお持ちの企業様へ向けた 生産性向上をテーマにしたシリーズ研修を企画しており、

  • 『社内メンバーが納得、共感する目的/目標』の作り方
  • 『現状分析』を行う上での、基本的な考え方や進め方
  • 実施施策のアイデア出しの方法や、社内での意思決定を行うために必要な考え方

など、生産性向上のフローを実践するためにすぐに使えるスキルを習得します。

現状分析が的確にできると、自社に最適な施策を選定をすることができます。
また、実施施策案となるアイデアを出す考え方を習得でき、既存の考えに捉われない広い視点で考えることができます。

「生産性向上に取り組んでいるが何から手をつけたらよいのか・・・」
「自社の取り組みがうまくいっていないがどう手を打つべきか・・・」
といったよくあるお悩みの解決のヒントになるような研修をお届けしていきたいと思います。

是非、この機会に企業としての成果を上げ続けるための基盤づくりに取り組んでいきませんか?

■コラムに関連したおススメの公開セミナー

生産性向上研修シリーズ

業務改善・生産性向上のための関連セミナー