人材開発コラム COLUMN
2023年新入社員の指導ポイント~2022年の新入社員の傾向から~
2023年01月30日
2023年度の新入社員の受け入れまで残すところ約2ヶ月。
多くの企業様は、4月の受け入れ準備だけでなく、年間を通じた新入社員の研修スケジュール計画に苦労されているのではないでしょうか?
一方で、学生生活がどっぷりとコロナ禍にあった今年の新入社員にとっては、社会にでることへの不安が大きいのではないでしょうか?
コロナ禍の環境変化で、テレワークや時差通勤などの多様な働き方を模索するなか、新入社員の受入れに関してもコロナ前とは形が変わってきています。
今回は、弊社が2022年4月に実施した新入社員研修を通じて、「指導した講師が感じた2022年度の新入社員の傾向」をご紹介します。
また、研修後に受講者を対象として実施したアンケート結果をもとに「新入社員が感じている仕事観」を合わせてみることで、1年前の新入社員の傾向を紐解きます。
さらに、これらの結果をもとに、これから迎え入れる2023年度の新入社員の傾向を推察していきたいと思います。
■2022年度新入社員の傾向とは?~講師が感じた今年の新入社員の傾向~
2022年4月に実施した弊社の新入社員研修ですが16クラス、425人の新入社員が参加してくださいました。
いずれのクラスも、ベテランの講師陣が登壇し、座学だけではなく、グループワークやレポート提出など、新入社員一人一人の様子を確認しながら研修を行いました。
そのうち、一般コースにご参加いただいた231人の受講の様子を、「素直さ」「積極性」「規律性」「主体性」「協調性」「理解力・実践力」「関係構築力」の7つの観点で5点満点で評価しました。
同様の評価を行った2019年、2021年度の数値と2022年の研修中の様子を照らし合わせながら、「2022年度の新入社員の傾向」を分析しています。
(※2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の状況により新入社員研修の開催が中止)
上のグラフを見ると、これまでと比較して、「素直さ」「積極性」「規律性」「協調性」「理解力・実践力」という5つの項目で全て昨年を上回る結果となりました。
その中でも「協調性」「理解力・実践力」などの2項目は、昨年からの大幅に上昇しています。
コロナ禍の学生時代をで過ごすなかで、さまざまな活動に制限があるなかでも意識を高め、努力を重ねてきた結果ではないかと推察します。
■新しい関係構築が苦手?関係構築力の強化が今後の課題
一方で、昨年も低かった項目「主体性」「関係構築力」については、多少の上昇はあったものの他の項目と比較すると低いままです。
この2項目については、コロナ禍前と後で顕著に低下している項目で、コロナ禍3年目となっても、影響はまだまだ随所に残っていることがわかります。
具体的な行動としては、講義内での積極的な発言や自主的な行動、周囲の状況に気を配った行動が出来るのは特定の個人に限られる傾向が見られました。
また、講義の区切りごとに講師が質問を促しても返答がなく、研修レポートを通じて質問をするなど、人前で発言することに抵抗を感じている様子が見て取れました。
さらに、休憩時間などは「個」の世界に入る傾向が強く、積極的に他者と関わりをもつことを避けていたように感じられましたが、同じ会社の者同士であれば比較的対話をしている様子が見られました。
これは、コロナ禍での学生生活で、対面でのコミュニケーションの機会が制限された時間があまりに長かったことが要因と考えられます。
限られたコミュニティー以外での「関係構築力」を高めていくことが今後の課題のひとつです。
■Z世代の特徴を活かす指導を!活躍のために必要なON/OFF
2022年の新入社員はZ世代と呼ばれ、最初に手に取ったのがスマーフォンであるというデジタルネイティブな世代です。
このため、この世代の社員には、最新の情報収集やSNSを活用したマーケティングなどさまざまな分野での活躍が期待されています。
しかしながらその一方で、研修期間中、もともとこの世代に目立っていたスマートフォン依存に拍車がかかっているような場面が見受けられました。
・休憩時間に体を動かすなどのリフレッシュを促しても立ち上がらない
・休憩時間も他者とのコミュニケーションを図らず、じっとスマートフォンの画面を見続けている
・研修中はスマートフォンを使用して良い時間帯を制限していても、我慢が出来ずそれ以外の時間帯に手にとってしまう
などの行動が散見しました。
これは、コロナ禍の影響で自宅で過ごす時間が多かったことから、よりスマートフォンへの依存が高まり、プライベートとのON/OFFの切替えが難しくなっているのではないかと考えます。
社会人として、そのあたりを区別し、この世代の良い特徴である面を仕事で活かせるよう指導していくことが必要です。
■指導に活かす!Z世代とゆとり世代の違いと共通点と相違点
一般的に、ゆとり世代と呼ばれている世代では、「みんなと同じがいい」と、同じであることに安心感を感じている傾向が強い印象でした。
Z世代代も「周りから浮きたくない」と考えるところは、同様に連続している世代の傾向です。
しかし、SNSネイティブとも呼ばれているZ世代は、「Twitter」「Instagram」「TikTok」などSNSをたくみに使いこなし、もはや生活の一部となっています。
新しいサービスや商品にも順応していく能力が高く、SNSを通じてさまざまな価値観に触れる機会が多かったことから、多様性や自分と違う価値観の人を受け入れることにはさほど抵抗はありません。
そのため、「自分らしさ」を大切にすることに重きを置き、「自分のスタイル」を確立していくことに長けており、自己承認欲求も強めとも言われています。
情報の受け手でありながら、自らも情報の発信者であることが当たり前なのもこの世代の特徴です。
「SNS上で人とつながること」「面白いと感じたことや感動を共有すること」を大切にする世代とも言えます。
しかしながら、それはSNS上でのこと。
実際には、人前で質問したり、意見を発表したりするというリアルな場面などでは積極的とは言い難い様子が見られます。
これらのような特徴を踏まえて、指導育成の場面では、注意が必要です。
特に、多様性や個々の価値観を無視したような言動やハラスメントなどにはとても敏感です。
OJTなど行う指導者側としても、より一層「個の尊重」を意識して臨む必要があるでしょう。
■相談しやすくて、人間関係が良いことがカギ
さて、これまでは2022年度の新入社員研修の中で担当した講師からの所感から、新入社員の特徴と傾向をお伝えしてきました。
ここからは弊社が研修参加者に実施したアンケート結果をもとに考察していきます。
2022年新入社員研修に参加した一般コース、製造業コースの受講生425人を対象に、就職活動や仕事観に対する意識調査アンケートを実施しました。
働き方や職場環境に関して「二つの意見のうち、どちらが自分の意見に近いか」という質問を行いました。
いくつか顕著な結果が出たものをピックアップして紹介します。
まず、職場環境や人間関係について調査をした結果からご紹介します。
理想の上司の項目から言えることは、引っ張ってくれるリーダーよりも相談しやすく人間関係を重視する上司がやはり圧倒的に支持されています。
これはOJT指導者にも言えることであり、仕事だけを教えるのではなく、ときにメンターとして寄り添い、悩みや困りごとを聴く姿勢も求められます。
また、職場の雰囲気に関しても「職場コミュニケーションを密で一体感のある職場」を求める傾向が続いており、これらは若年層を指導するにあたり、注視すべきポイントです。
■キャリアアップ志向が高まっている新入社員
次に、仕事やキャリアに関する考え方を見てみましょう。
これらの調査結果から、微増ながらキャリアアップへの意識が高まっており、転職に対する肯定的な考えが増えていることがわかります。
昨今の新入社員は、義務教育が始まったころからキャリア教育を受けて成長してきた世代です。
そのため、仕事に対する価値観や自分自身のキャリアアップ、スキルアップについての興味関心は高まっています。
「仕事を通じて自分がどう成長していくのか」「多少苦労してでも、自分自身にスキルが身につくなら努力できる」といった仕事に対する考え方にシフトしている様子がうかがえます。
これらのことから、OJT指導者は、仕事の内容だけでなく、この仕事や製品、サービスは社会のどのようなところで喜ばれ役立つのかなど全体像を伝えること、そしてその仕事に取り組むことで自分にどんなスキルを身につけることができるかなど、イメージできるような対話が求められるでしょう。
また、この世代は、リーマンショックや東日本大震災などを多感な時期に経験しています。
そのため、社会貢献欲が強いといった傾向もあります。
そういったことから、自社製品や自分の仕事が社会のどの部分で役立っているのか見えるような説明ができるとモチベーション向上にもつながりますね。
■今後の指導のポイントまとめ~2023年度新入社員受け入れに向けて~
ここまで、2つの視点から2022年度の新入社員の傾向を紐解いてお伝えしてきました。
そして最後に、今回の調査結果と筆者が多くの新入社員と関わる中で感じたことを”2023年度新入社員受け入れに向けた指導のポイント”として、3つの項目に絞ってお伝えします。
1.OJT担当者とメンターの役割強化と多面的なスキルアップ
まず、新入社員を迎えるにあたって、新入社員を育成する環境を整えることは重要です。
これまでは「仕事を教える人(OJT担当者)」と「メンタル面のサポートをする人(メンター)」は、それぞれの役割の違いから、別の人が行った方が良いという考え方がありました。
これにより、新入社員本人が「誰に何を相談すればよいのか?」わかりずらいという声が上がりやすい状況がありました。
もちろんこれまでの指導方法のまま、役割を分担して新入社員の育成にあたることも間違いではありません。
しかしながら、どの企業においても人材が潤沢にいるわけではありません。
限られた人材の中で新入社員を育成するためには、OJT担当者が、ある程度メンタル面をサポートできる知識の習得をすることをおすすめします。
これにより、それぞれがカバーできる役割の範囲が広がり、補完しあい、より効果的な指導にあたることができます。
また、本コラム前半でもお伝えしたように、リアルでの自己表現やコミュニケーションが苦手な傾向のある新入社員を指導していく必要があります。
つまり「リアルな場面で伝える訓練」の実施が求められます。
このためOJT担当者やメンター自身もプレゼンテーションスキルが必要となってきます。
そこで、部下育成のための指導スキルだけでなく、ロジカルシンキングやプレゼンテーションなどについても、折りに触れて学んでいただくことをおすすめします。
このことは新入社員の育成指導のためだけでなく、自身の仕事にも活かすことができます。
新入社員の育成だけでなく、指導にあたる職員の育成が、企業の生産性向上にもつながるということです。
2.学習経験サイクルを意識した指導スキームの再構築
新入社員を含む若年層は、ワークライフバランスを非常に重要視しており、プライベートの充実に重きを置く人が多い世代です。
このため、プライベートの尊重と適度な距離感を意識した指導を行う必要があります。
過度な干渉は、ハラスメントの発生にもなりかねません。
しかし、一方でハラスメントなどを恐れて、放任主義になってしまうのも良くありません。
そもそも仕事は与えておくだけでは本人の成長にはつながらないのです。
人が経験からより良くより深く学ぶためには、「経験する」→「内省する」→「概念化(気づきを得る)」→「能動的実験(気づきを次の行動に活用)」を意識する必要があります。
これは、組織行動学者のデービッド・コルブが1984年に提唱した経験学習モデル理論に基づいたものです。
この流れに基づいて指導スキームを構築することで、より効率的かつ効果的な新入社員育成が可能となります。
また、テレワークの導入など、多様な働き方の導入で、時間管理やマネジメントが難しく、対面での指導や管理方法と同じようにはいきません。
これまでの新入社員育成のスキームを一度見直してみませんか?
3.心理的安全性の高い職場で得意分野を活かす指導
新入社員世代が苦手なことを克服し、得意なことが活かせる指導を行うことで、これまでになかった新しいアイディアが生まれたり取り組みができる可能性が広がります。
リアルなオフラインでのコミュニケーションは苦手でも、SNSなどを駆使したオンラインでの取り組みは非常に得意なのがこの世代です。
企業にとってもマーケティングや市場調査など、この世代が中心となって新たな情報発信の方法など見出すチャンスかもしれません。
彼らの持っている良さを最大限に活用でき、その発信力を高めるための機会を創り、磨くことが重要です。
そのためにも、新入社員が苦手とするリアルでのコミュニケーションや情報発信の機会を提供するなどし、デジタルとリアルのバランスを図り、上手く活用しながら育成していきましょう。
また「映画を早送りで観るのは当たり前」という”コスパ”ならぬ”タイパ(タイムパフォーマンス)”を重視している世代とも言われています。
コロナ禍で働き方が多様になった背景やDX推進に伴って、効率化や自動化が叫ばれるなか、むしろ新入社員世代の感覚が重要だと感じています。
ですから、新入社員にとって、その適性を活かすべく、情報収集力の高さや新しいことへの興味関心を仕事で活用できるよう、アイデアを発信できる場の創出をお勧めします。
自分の発信したことが採用され、社内で実現化されたら、早期に戦力化する道が開けると思います。
新入社員にもどんどん前に出てもらう機会を創り、経験値を増やすことを意識することで、新入社員の早期戦力化につながります。
また、これらの実現のためには、自由に発言して良い環境や相談できる人間関係など職場の「心理的安全性の担保」が必要不可欠です。
■業績優秀な社員が良いトレーナーとは限らない
さて、ここまで多くのことをお伝えしてきましたが、改めて御社の新入社員研修の受入れ体制は大丈夫でしょうか?
これからOJT指導にあたる先輩社員を任命される時期かと思います。
毎年ながらお伝えしていることは、一概に業績優秀な社員がトレーナーに向いているとは言えないということです。
業績優秀なことは大切なことではありますが、それよりも新入社員を育てるためには、時にはあたたかく見守ったり、新入社員と同じ目線に立って考えるなど、「寄り添う姿勢」と「教えるためのスキル」が必要なのです。
これらを踏まえて、先輩社員にも意識改革と指導するスキルを身につける研修の提供が不可欠です。
是非、指導にあたるOJTトレーナーの育成のためにも弊社の公開セミナーをご活用ください。