人材開発コラム COLUMN
貴院の発展に必要な人材は、医療人?組織人?
2018年02月27日
はじめまして。今回よりコラムの執筆を担当します、垂水謙太郎(たるみ けんたろう)と申します。
医業経営コンサルタントとして、岡山県内はもちろん、全国各地の大学病院から地域密着型の中小規模医療機関・介護施設まで、様々なご支援をさせていただいています。
■医療機関支援にかかる4つのポイント
私が医療機関のご支援に携わらせていただくようになって十数年が経過しますが、その間ご支援の内容は大きく様変わりしてきました。
当初は、「経営再生・収支改善」といった、“いかに今を乗り切るか”といった内容が中心でした。その後、病棟機能の再編や地域包括ケアシステム構築に向けた動きが加速化する中で、「経営戦略・中期経営計画の策定」という業務が中心となりました。特に、中小規模の地域密着型医療機関を中心に、世代交代の時期にさしかかっていたことも、その要因であると思います。
現在では、「策定した戦略をいかに実行するか」というテーマでのご相談が多くなりました。そのご相談のポイントは、大きくは以下の4つに大別されます。
1. 戦略を策定したが、職員に浸透しない
2. 戦略を実行しようと様々な指示をしても、できない理由ばかり出てきて、すぐ頓挫する
3. やる方法を考えるように指示しても、何も出てこない(自分たちで考えない)
4. 次を任せるべき幹部・管理職が育っていない
かなりの数の医療機関様より様々なご相談を受けていますが、ほとんどのご相談がこの内容に集約されます。これだけ多くの機能・規模・地域性も風土も全く異なる医療機関が、ほぼ同じ悩みを抱えているということになります。
いったいなぜでしょうか?
もちろん、固有に多くの事情や理由があると思いますが、最も大きな要因として「組織人教育・ビジネススキルの育成がされてきていない」ということが挙げられます。
一般企業では、新入職員が入職すると、まずはビジネスマナーを研修で学びます。配属後は、先輩社員とのOJTを通じてビジネスマナーの実践指導を受けながら、仕事の進め方や関係部署との調整について学んでいきます。
一定程度の経験を積むと、その経験と今後期待される役割に応じて、中堅職員研修・リーダー研修などを経て、役職者に必要なスキルを学んでいきます。管理職になる人材は、個々の仕事の成果はもちろん、これらの研修(座学・実践)を通じた総合評価で、適性があると認められた人になります。
■半年程度、最低限のスキル研修を
さて、医療機関ではいかがでしょうか?
『入職時に、オリエンテーションを兼ねて最低限の接遇等の研修を行い、あとは各部署に配属されその部署に任される。特に医療職は、資格がある(=スキル教育を受けている)ということを前提に、半年程度、最低限のスキル研修(確認の意味合い)を各部署で行い、独り立ちさせる。病院全体では法定研修のみ行い、あとは各職種の特性に応じたスキル研修を各部署の任意で行なっている』
そのような医療機関が多いのではないでしょうか?
そしてこのなかには、ビジネスマナーやビジネススキルの教育は入っていません。
実際の研修等でよくあげる例があります。私は病院機能評価のご支援などもさせていただくので、病棟をラウンドすることも少なくありません。すると、病室にノックもなしに(あるいはノックをしても返答を待つ間も無く)いきなり入る職員を多く見かけます。あるいは、打合せ中の部屋に当たり前のように“ガラッ!”と開けて入ってくる職員も少なくありません。
一般企業でこのようなことを行えば、その職員は後でこっぴどく指導されることはもちろんですが、商談中であれば、客側はまずそのような企業との取引には後ろ向きになります。
チーム医療という言葉が使われるようになってすでに久しいですが、チーム医療はできていますか?多くの医療機関で、属人的なチーム医療となっている姿を目にします。属人的なチーム医療とは、仲の良いスタッフ同士でしか協力的でなかったり、情報共有や協働がその患者に関わった特定のスタッフでしか行われていないという意味です。
「ある患者の情報をその日の受け持ち看護師は知っていたが、役職者には知らされておらず、後にクレームになった」
などという話は、枚挙にいとまがありません。チーム医療とは、個人ベースで調整して行うものではなく組織ベースで行われるべきものです。
■院外の系列施設や他法人との連携も必須
どの部署にも、それぞれ方針があり事情があります。個々人の勝手な判断で物事を決め、自分たちがやりやすいようにローカルルールを決めて、それを上司が知らないなどということは、一般企業では考えられないことです。チーム医療を多職種協働と表現したために、このような誤解が生まれたのかもしれませんが、本来は多部署協働です。各部署の異なる利害関係をオフィシャルに調整する場も人もおらず、その場の判断で属人的にインフォーマルに決定されているような状況を組織と言えるでしょうか?
特に今日では、院内のみならず院外の系列施設や他法人との連携も必須になります。院内でできないことが、院外でできるはずがありません。
このような状況を生んでいるのは、“誰が悪い”ということではなく、専門職としての教育は熱心に行うが、組織人・ビジネス人としての教育を行ってこなかった、これまでの歴史にあると考えています。
“組織”を束ねていくことは簡単ではありません。特に、個々人の“想い”の強い専門職の集団を束ねていくことは、かなりの難作業です。
組織マネジメントを円滑に行っていくには、
●中心となるべき管理職のマネジメントスキルの醸成
●全職員に対する、組織人としての基本的な考え方の意識づけ
が必要となります。
今後、このコラムの中で、これらの考え方やそのために必要な教育研修について解説を行なっていきたいと思います。
このコラムが、強い組織を作る一助になれば幸いです。
(文責:キャリアプランニング契約講師 垂水 謙太郎)