人材開発コラム COLUMN
医療機関において、なぜ管理職の育成が必要なのか?
2018年06月26日
■病院は企業ですか?
私がマネジメント研修を行うとき、必ずはじめにする質問があります。
“病院は企業ですか?“
実は、未だに「病院は人の命を預かる公益的な仕事だから、利益とか考えるべきではない。だから企業という表現はなじまない」という発言をする経営者は少なくありません。
『企業=株式会社=売り上げや利益が第一』という固定観念が強いのかもしれません。
企業には定義があり、“営利・非営利に関わらず、一定の計画に従い継続的意図を持って経済活動を行う独立の経済主体(経済単位)を指す”とされています。そして、企業は一定の条件・定義を満たしていれば、人数には関係なく一人でも、企業と呼べます。一人で直接、社会に貢献していくことも可能なのです。
しかし、その貢献度合いや影響をより大きくするために、企業は「組織化」して活動を行うことを選び、「個人」は組織に属することで、組織を通して自己実現や社会貢献を行うようになりました。
これを医療機関に当てはめると、医療というサービスを提供することで、その対価として医療費を受け取るという経済活動を行い、それを永続していくという意思を持っているという点で、医療機関も企業の定義に当てはまります。
例えば、診療所からスタートした医療機関が、より多くの患者を見るために医師を増やしたり診療科目を増やし、さらに入院加療が必要な患者を継続的に診るために入院施設を増やしていくことで、診療所から病院へと規模を大きくしていきます。
その過程で、職員数が増え、組織化をしていくわけですが、多くの病院で“組織とは何か”ということを意識しないまま、規模だけが大きくなってしまっているということが現状ではないでしょうか?
■病院=専門職集団であるがゆえのジレンマ
さらに、もう一つ病院の組織の大きな特性として、“専門職集団である”ということが挙げられます。各職種はその専門性に従った仕事をしていますので、“専門の業務に特化し専門外のことには口を出さない”ということは一定の理解はできますが、結果として自分の部署の利益(ここでいう利益はお金のみではありません)のみにこだわり、病院全体や他部署の事情を考慮しないという文化を生み出していると感じます。
組織には定義があり、私は、
●共通の目的を持っていること
●その目的を達成しようという意欲を持っていること
●その実現のために役割と調整機能を持っていること
●コミュニケーションが図られていること
と説明しています。
研修でも同じ話を冒頭に行い、受講者に「では、当院の共通の目的とはなんでしょうか?」という質問をしますが、ほぼ答えが返ってくることはありません。
■目標は理念や基本方針を実現するものになっているか
病院(企業)における共通の目的は「理念」であり「基本方針」に書かれています。
昨今では、目標管理制度(MBO)を導入し、部署ごとの目標設定を行う医療機関が増えてきました。
ここで改めて確認してみてください。
各部署の目標は、病院の理念や基本方針を実現するものになっていますか?
経営マネジメントの基本は、
「理念」
↓
「基本方針」
↓
「(中期)戦略」
↓
「単年度全体目標」
↓
「単年度部署目標」
という流れができていることです。
そのためには、
①理念:自院の存在意義は?(何を成し遂げたいのか)
②基本方針:そのために、どのような考え方で医療サービスを提供するのか?
③戦略:具体的には、どのような機能を提供していくのか?
を、経営幹部はもちろん、管理職が語れなければなりません。
■「連結ピン」としての管理職の重要性
なぜ管理職が語れなければならないか。
リッカートによると、「管理職は連結ピンである」とされています。
管理職は、経営職の意向(方針)を直接聞く立場にあります。
そして、自らが管理統括する部署のスタッフに、その意向(方針)を伝達することが求められます。
また、現場で起きている問題点を拾い上げ、経営者の判断が必要なものについて、対策を上申し判断を仰ぐことが求められます。
このように、経営層と現場をつなぐ役割を果たすことが求められることから、「連結ピン」と称されるのです。
■求められる「ミドルアップダウン方式」のマネジメント
これを、もう少し今日的なマネジメント手法に置き換えて説明すると、かつては経営者の意向を一方的に伝達し従わせると言う方式の、いわゆる「トップダウン方式」のマネジメントが主流でした。
その後、現場の意向をもっと反映した経営を行うべきであると言う考えから、いわゆる「ボトモアップ方式」のマネジメントが注目されるようになりました。
どちらの方式にもメリット・デメリットがあります。
「トップダウン方式」は、意思決定が迅速で、指示命令が明確になり、また一体感が生まれやすくなります。
一方で、部下の意見は取り入れられないため、職員はモチベーションが上がらず、考えたりものを言うことをやめ、「ただ言われたことを言われた通りにやる」と言う文化が生まれます。
「ボトムアップ方式」は、広く職員の意見を聞こうとするため、トップダウン方式に比べると職場の雰囲気は柔らかく、自由闊達な風土が生まれやすくなります。
一方で、全体最適を考えられない職員が、自部署の都合のみを主張し続けたり、経営層の意思決定に時間がかかると言うデメリットがあります。
今日では、その中間をとって、「ミドルアップダウン方式」のマネジメントが望ましいとされます。
つまり、経営層は意思決定を明確にし、方針を的確に伝え、現場は、その実現のために必要な情報や顕在化した課題を上申する。管理職はその中間点に立って、経営層の意思伝達と現場の課題の抽出と上申の役目を担う、トップダウンとボトムアップの中間(ミドル)に立ってマネジメントを行うと言うことです。
そのためには、まず管理職が経営層の意向を的確に把握することが重要になります。
その意向が「理念」「基本方針」「戦略」に網羅されているのです。
管理職に求められる役割は多岐にわたり、その育成には様々なアプローチが必要ですが、その点については今後のコラムで触れていきます。
まず、貴院の管理職が「理念」「基本方針」「戦略」を自らの口で正しく語れるか? この機会にぜひご確認ください。
(文責:キャリアプランニング契約講師 垂水 謙太郎)