病院機能評価を活用した業務改善vol.1

2019年05月07日

これからの病院経営に求められる3つのキーワード

診療報酬の増加を期待することが難しく、また今後2040年に向けてますます労働力の確保が難しくなることが予測されています。
そんな中、病院の健全経営を維持していくためには、より効率的な経営を行っていくことが求められます。

昨今、「働き方改革」、「医師・看護師の負担軽減」というキーワードが声高に叫ばれています。
これはともすれば、ただ残業を制限したり、有休消化率を上げるという目先の数字を上げることにとらわれてしまうと、実体のないサービス残業が横行したり、有休消化率を上げるために人員を増やし、人件費が増額して経営が苦しくなるという悪循環を招きかねません。

これからの病院経営に求められることは、「現状の体制でいかに業務効率を上げ、一人一人の生産性を高めることができるか」にかかっていると言えます。

そのためのキーワードは

【1】業務の標準化
【2】改善意識の醸成
【3】引き算の文化

の3つです。

今回のコラムでは、このうち【1】と【2】について触れます。

病院機能評価の活用が求められる現状

これまで多くの医療機関に携わり、「現場の個別性に即したフレキシブルな対応」という名目のローカルルールの横行、「自分たちはこのやり方でずっとやってきて問題ない」という変化を拒否する文化、「質の改善」という名の過剰な重複業務の発生による業務過多という光景を、イヤというほど目にしてきました。

もちろん同じ疾患でも患者の状態は千差万別ですから、個別性に応じた対応が求められることは当然です。
しかし、それは基本のルールに則って行われる土台があっての付加価値であるべきで、実態として目にする個別性は「患者の個別性」ではなく「職員の個別性」によるやり方の違いです。

「慣れている人が慣れているやり方でやることが最も効率が良い」という発言をよく耳にします。
本当にそうでしょうか?
それでは、業務が属人的になってしまい、その人がいなかったらその業務は回らなくなります。

また、人によってやり方が違う状況は、質や時間のばらつきをまねきます。

質のばらつきは事故のリスクの増大や質の低下につながり、時間のばらつきは無駄をまねき、業務効率と生産性を低下させます。
このような状況を避けるため、私は病院機能評価の活用を勧めています。 

「病院機能評価」は目的ではなく手段

「病院機能評価」と聞くと、拒否反応を示す方も少なくないと思います。

マニュアル至上主義・文書作成に労力を取られる…
今でもそのような声はよく耳にします。

もちろん必要以上にマニュアルを細かくしたり、マニュアル作りに労力をかけることには意味はありません

しかし、院内の安全や感染、患者の権利に対する取り組みの統一という意味では、病院機能評価を活用し体系的に整理することは、非常に意味があります

実際に、病院機能評価を取得していない医療機関をラウンドすると、病棟によってどころか職員によって、安全・感染・患者の権利に対する考え方がバラバラ、そもそもルール自体がいつ見直されたのか誰に聞いてもわからない、という状況を目の当たりにします。
安全や感染に関する取り組みにゴールはありませんし、その対応レベルに対する考え方も様々だと思います。
それらを調整することは簡単ではありません。

そこで、病院機能評価で求められる考え方を一つのスタンダードとして、まず基準値を定めていくことで「標準化を図る」ことが効率的であると言えます。

また、病院機能評価を取得している病院でも、マニュアルは立派だが標準防護策すら職員によって理解や対応が違うという光景をよく目にします。
これは、病院機能評価の問題ではなく、「決められたルールを守る」、あるいは「ルールを定期的に見直したり、変更する時にはその決定プロセスを共有する」ということがなされていない、という院内の文化が原因です。

第3世代の病院機能評価では、5年の更新の間に期中確認が導入され、継続的な改善活動を報告することが求められています。
「特定の担当者がマニュアルを整備したら、次の更新まではお蔵入り」という状況を避けるためにも、ぜひ活用していただきたいと思います。

さらに、現在の病院機能評価では、ケアプロセスを重視しています。
これは、入院から退院まで、どのような経過をたどり、他職種がどのように情報共有し関わっていったのか、を見るものです。

実は、このケアプロセスを見ると、昨今の診療報酬で強化されている、入院時支援加算や入退院支援加算に求められている動きが実際にできているかどうかを如実に確認することができます。

このように、病院機能評価を活用することで、業務の標準化による効率の向上だけではなく、診療報酬で求められている要件の充足につなげることも可能です。

 私は病院機能評価の取得を勧めているわけではありません。

病院機能評価の取得は目的ではなく手段です。

仮に取得しなくても、その考え方を活用した業務改善が可能であると考えています。

実際に私の関与先では、そのような取り組みを進めることで、ルールの統一だけではなく、業務の改善意識を高めることにつながっています。
【3】の「引き算の文化」については、次回のコラムで触れたいと思います。

まずは、業務の標準化による質と時間のばらつきをなくすことから取り組んでみませんか?

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