人生は計画と偶然の産物?キャリアプランを考える

2019年07月29日

昨今、「キャリアビジョン」や「キャリアデザイン」など、ちまたに溢れるこの「キャリア」という言葉。
皆さんはその意味を考えたことはあるでしょうか?

今回は、この「キャリア」という言葉を切り口として、筆者である私の体験も踏まえ、今後の仕事をはじめとするキャリアプランの考え方をご紹介をいたします。

■キャリアとは…自分の歩んできた軌跡

みなさんがキャリアビジョンやキャリアデザインという言葉を最初に聞いたとき、思い浮かべることはどのようなことでしょうか?
恐らく、多くの方が、「仕事」についてのビジョンもしくは「仕事を中心とした」ビジョンではないかと思います。

キャリアを積むという言葉もあるように、積み重ねた経歴というイメージを持つ方もいらっしゃるでしょう。

そもそもキャリアの語源はラテン語の「carrus(車輪のついた乗り物)」だといわれています。
これは車輪の通った跡である轍(わだち)のことを指しています。
つまり、その人が通った後、つまり電車のレールのように、前もって敷かれているものではありません
キャリアは目の前に用意されているレールではなく、自ら歩んだ証です。

そしてこれは仕事に限ったことではありません。その人の仕事も含めた人生そのものといえるでしょう。

■では、キャリアプランとは?キャリアビジョンとは?

次に、「キャリア」を含む様々な言葉について考えてみたいと思います。

ここでは、耳馴染みのある「キャリアビジョン」についてみていきます。
言葉のとおり、キャリアビジョンは「キャリア」と「ビジョン」という言葉が合体した言葉です。

キャリアは前述のとおりの意味ですが、「ビジョン」にはどのような意味があるでしょうか?
「ビジョン」とは「未来像・将来像」という意味があり、キャリアと合せると「その人の人生そのものの未来像」といえるでしょう。
そしてキャリアビジョンを描くとよく言われますが、その描くためのステップに「キャリアプラン」や「キャリアデザイン」といった言葉が使用されます。

「プラン」は言葉のとおり「計画」、「デザイン」は「設計」と言い換えられます。
つまり、私たちは現時点から仕事を含めた人生の未来像を描くとなった場合、「人生の設計」を行いそのために必要な「人生の計画」を立てる

そのようなイメージを持っていただくと分かりやすいと思います。

■面談時に欠かせない「価値観」のヒヤリング

具体的な例をご紹介します。
私たちは、人材ビジネス業にも携わっているため、多くの求職者の方の転職支援を行って参りました。

転職となると「お仕事をご紹介する=その方の希望と求人条件が合致するお仕事をご紹介する」と、一般的にはイメージされるでしょう。
しかし、実際のカウンセリングの場面で行っていることは、お仕事に関する「未来像」はもちろんですが、その方の「価値観」を含めた人生観を必ずお尋ねします。

つまり、その方がどのような生活を送りたいか、人生を送りたいか、それを成し遂げるために大切にしている軸(価値観)は何かをお尋ねするようにしています。

いくら仕事における条件が整っていたとしても、「キャリアはその人の人生そのものである」という意味を思い起こせば、必ず理解しなければならないポイントとなります。

 このように考えると、キャリアは人生そのものであることから、仕事を考える場面においても、ライフ(実生活)を考えることは非常に重要です。
とくに、ライフの中にその方の価値観や考え方の軸が潜んでいるため、その軸を無視したキャリアデザインやキャリアプランでは、描く未来像も手に入らないでしょう。

 

■価値観や能力に沿って考えるキャリアプラン

ここで紹介したいのは、マサチューセッツ工科大学の組織心理学者であるエドガー・H・シャイン博士が提唱するキャリア理論の有名な概念です。

「キャリア・アンカー」理論と呼ばれ、それぞれ個人がキャリアを選択する際に、その「能力」「欲求(動機)」「価値観」の3つの要素、つまり自分にとって「できること、できないこと」「やりたいこと、やりたくないこと」「重要なもの、重要でないもの」など、周囲が変化しても、自分の中で変わることのないこの要素が非常に重要であると説いています。
この理論では、船が航海中、停泊する際に「イカリ:Anchor」をおろすようにのように、個人にとって、生涯にわたって揺らぐことのないものをキャリア・アンカーとして表現しており、その人の重要な意思決定に影響を与え続けるとされています。

まさにこれが、私たちが求職者の方にヒヤリングする人生観・価値観です。

ちなみに、博士はこの3つの要素の組み合わせにより、8つのキャリア・アンカーとして分類しており、ほとんどすべての社会人はこのいずれかにあてはまると説いています。

  1. 専門・職能別コンピタンス:特定の専門分野で能力を発揮すること、自身の技術が高まることに喜びを感じる
  2. 全般管理コンピタンス:集団や組織の中で責任ある役割を担うことや組織の成功に貢献できることに喜びを感じる
  3. 保障・安定:会社組織に忠誠を尽くし、社会的・経済的・精神的な安定を得られることに喜びを感じる
  4. 起業家的創造性:リスクを恐れず、新しいものを創り出すことに意欲を発揮し、喜びを感じる
  5. 自律と独立:組織の中にあっても、規則・規範に束縛されることなく、自分のやり方で仕事を進めていくことに喜びを感じる
  6. 社会への貢献:社会に対する貢献や奉仕ができることに喜びを感じる
  7. ライフスタイル:家庭や仕事などのバランスが取れていることに喜びを感じる
  8. 純粋なチャレンジ:困難な問題の解決や障害を克服することなどに喜びを感じる

いかがですか?
「あ、僕はこのタイプだな」「私はこれとこれに当てはまるな」など、それぞれ個人の価値観、能力、欲求を加味すると、この8種類のカテゴリーのいずれかに、当てはまったのではないでしょうか?

改めて自分の価値観を見直すことは、キャリアプランを見つめなおす明確な指針になります。

 

■キャリアプランを考える意味

しかしながら、勘違いしていただきたくないのは、キャリアプランを言葉通りに捉え、「事前に綿密に計画し、その通りに実行すること」をお薦めしたいわけではありません

企業の倒産、リストラなどだけでなく、昨今は災害などのリスクもキャリアプランに影響が現れます。
また、特に女性は結婚、出産など予期せぬライフイベントを迎えることが予想されます。
そうなると、キャリアプランとして計画したことが、その通りに実行できないことは大いに考えられます。

キャリアビジョンをもち、それに沿ったキャリアプランを立てるのは今後の人生をより良いものにするためです。
目標に向けて、日々過ごすことは、毎日の充実度が高まり、幸福感を得られることでしょう。
それなのに、予期せぬ出来事があるたびに、「予定と違う」「うまくいかない」…と嘆くのは本末転倒ですし、せっかくのチャンスを棒に振ることにつながることになりかねません。

そのようなときに柔軟に対応できる考え方、捉え方をぜひ身に付けてほしいと思っています。

■計画通りに進まないのが人生

ここで、もう1つご紹介したいキャリア理論に「プランド・ハプンスタンス」という理論があります。

これは、1991年スタンフォード大学のクランボルツ教授によって提唱されたもので、日本では「計画的偶発性理論」などと訳されています。
意味としては、明確なキャリアプランは必ずしも必要ではなく、偶然の出来事や出会いを味方につけることができれば、思い描くキャリアビジョンに近づくことができるというものです。

前述の、「キャリア・アンカー」理論と比較されることが多くありますが、私はどちらが良い悪いではなく、どちらの考え方も重要だと捉えています。

この「プランド・ハプンスタンス」理論のポイントは以下の3点です。

  1. キャリアの8割は偶然の出来事によって形成されている
  2. 偶然の出来事を利用することで、キャリア形成に役立てる
  3. 偶然の出来事を引き寄せるための行動を積極的に行い、機会創出する

 これは、不確実性が高い世の中だからこそ、背中を押してもらえる…そのようなことを感じさせてくれる理論ではないでしょうか?

「何が起こるか分からない」「不確実で予想が難しい」そんな不安がうごめく中、「良い偶然」を味方につけることがキャリアアップの機会となる。
そういう意味を示しているのです。

そして、偶然を引き寄せるための行動(スキル)として、以下のように定義されています。

  • 好奇心
  • 持続性
  • 柔軟性
  • 楽観性
  • 冒険心

この5つを意識し行動することで、偶然を味方につけることができるのです。

このような理論でも定義されているように、個人が柔軟な視点や考え方を身に付ける事で、キャリアに対するとらえ方、仕事に対する考え方もきっと柔軟になるはずです。

■「見本の形」や「正解」がないキャリアプラン

「あなたのキャリアビジョンは?」「キャリアプランは?」
そんな風に聞かれても、明確に言葉にできる方は数少ないと思います。

実際、何かにつまづいたり、転機があったりなど、きっかけがないと、ご自身のキャリアビジョンやキャリアプランを考えることがないかもしれません。
私が、求職者の方とお話ししていても、お話ししていることで、ご自身の思いに気付かれるという方も多くいらっしゃいます。

せっかくこのコラムを読んでくださっているみなさんも、この機会に、ご自身の価値観や能力、欲求そして目指していきたいゴールなど、文字にしたり言葉にしてみるというのも良いかもしれません。

目指すキャリアビジョンを持って、それに向かってキャリアプランを立てる。
そのなかで前述のように、偶然を味方につけ、柔軟に自身のキャリアプランやキャリアビジョンを形作っていく。
「見本の形」や「正解」はないのですから、自由に、柔軟に、思うままに書き留めてみる、友人や家族、話してみるのも良いでしょう。

そうしたものを経過年で見てみると、自分のキャリア(自分の軌跡)や価値観が見えてくることでしょう。

■「迷う」ことも大切なステップ

それでも、「やはり悩んでしまう」「どうしたらよいか答えがほしい」「何かを掴みたい」そのような方もいらっしゃると思います。
そこでおすすめしたいのは、「迷うということを決める」ということです。

キャリアビジョンは1度決めたらまっすぐ進む、キャリアプランを決めたらそのように進む、そんなにうまく歩めるものでもありません。
当然、柔軟に考えようといわれても、日々悶々と悩んでしまう事もあるでしょう。

そんな時、私ががある方から言われた一言が「迷うという事を決める」という言葉でした。

私は「何かを決めないと動けない」という性格で、ある時期、本当に前にも後ろにも進めないという精神状況に陥っていることがありました。
そんな様子を見かねた恩師が私の軸(価値観)を捉え、伝えてくれた言葉です。

迷うことは悪いことではなく大切なステップです。
「私は迷うのだ」と決めること、「迷う自分を受け入れる」ことで前に踏み出す力になることもあります。

迷いつつも、立ち止まらず、キャリアビジョンを描くことで、「自身の目指す姿」と「実現の為のステップ」が明確になります。
ぜひこの機会に、ご自身のキャリアビジョン、キャリアプランをイメージしてみてください。
それだけでも、前向きに活躍するための第一歩につながることと確信しています。

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