組織を活性化させる「悪魔の代弁者」の存在

2019年10月23日

「悪魔の代弁者」という言葉を聞いたことがある方はいらっしゃるでしょうか?
この言葉は最近読んだ本の中で印象に残った言葉です。
言葉だけを聞くと、なんとも恐ろしい言葉ですが、その真意を知ると「なるほど」と思っていただけるのではないかと思います。

筆者が、様々な企業のコンサルティング経験を経て、この「悪魔の代弁者」の存在が企業や組織において非常に重要であると感じたため、今回このコラムでご紹介したいと思います。

■物事を多面的に捉えるための「悪魔の代弁者」

まず、この言葉の背景からご説明をいたします。
「悪魔の代弁者」という言葉の起源は古く、もともとはカトリック教会の用語だったようです。

■「悪魔の代弁者」とは
カトリックにおける列聖や列福の審議に際し(※列聖や列福とは信心深い信者に聖人や福者の地位を与えること)あえて候補者の欠点を指摘する役割が「悪魔の代弁者」として正式に設定されていた。悪魔の代弁者が信者の欠点を指摘するとそれを聖職者が論破する、このプロセスを繰り返すことで、その信者は客観的かつ公正に選ばれたという結果になっていた。

これが「悪魔の代弁者」の言葉の原点です。
現在ではこの意味から派生して、「ある主張の妥当性を明らかにするために、あえて批判や反論を主張する、その「役割」を意識的に担う存在」とされています。

そして、この内容と紐づく興味深い文献をもう1つご紹介いたします。
政治学者ジョン・スチュアート・ミルの著書である「自由論」において、健全な社会の実現に向けて「反論の自由」の大切さが述べられています。

抜粋した部分を以下にご紹介いたします。

■反論の自由
ある意見が、いかなる反論によっても論破されなかったがゆえに正しいと想定される場合と、そもそも論破を許さないためにあらかじめ正しいと想定されている場合とのあいだには、きわめて大きな隔たりがある。
自分の意見に反駁(はんばく)・反証する自由を完全に認めてあげることこそ、自分の意見が、自分の行動の指針として正しいといえるための絶対的な条件なのである。
全知全能でない人間は、これ以外のことからは、自分が正しいといえる合理的な保証を得ることができない。
(ジョン・スチュアート・ミル「自由論」より一部抜粋)

これがミルの視点から述べられている、「悪魔の代弁者」と同等の意味をもつと思われる「反論の自由」です。

つまり、物事の判断をする際に、あえて反対の意見を取り入れて、検討を行うことこそが、その判断の正当性が担保できる合理的な方法であると、いずれの言葉でも主張されているのです。

筆者がこの言葉の意味を知り、企業のコンサルティングに目を向けた時に、「悪魔の代弁者」の存在価値に対し、うなずけることが多くありました。

■仕事のクオリティを上げる「悪魔の代弁者」の存在

ではここから、組織における、「悪魔の代弁者」の存在について、考えてみたいと思います。

そもそも、仕事というものは様々な人々が、それぞれの立場で意思決定を行います。
しかもそれは、株主・経営者・従業員・顧客・取引先などの利害関係者、いわゆるステークホルダーとの間にて意思決定を繰り返すことで進められています。
小さな決定から大きな決定まで、意思決定は仕事の中でも重要なプロセスの1つです。
特に大きな場面での意思決定のクオリティを高めることは、仕事のクオリティを高めることに繋がります。

そして、その意思決定のクオリティは、ひるまずにお互いに意見を述べて盛んに議論をする、いわゆる「侃々諤々(かんかんがくがく)」な意見交換が行われるほど高まるとも言われています。
つまり、一歩踏み込んで考えれば、似たような意見や志向特性をもった、同質性の高い人ばかりが集まると、意思決定の品質は低下し、同じ目的に向かう中で同調する意見、反対する意見など忌憚のない意見交換が行われてこそ、仕事のクオリティが上がるといえます。
そして、その状況を作り出すための1つ存在が「悪魔の代弁者」なのです。

■貴重な「悪魔の代弁者」が存在しにくい理由

では実際に、自組織を振り返った際に、このような存在、役割を敢えて担っている方はどれほどいらっしゃるでしょうか?

前述のように、仕事のクオリティを高めるために「悪魔の代弁者」の存在が非常に重要であることは理解いただけたと思います。
しかしながら実際には、組織の中では存在しづらく、その理由は以下の2つに集約されるように感じます。

理由1:「悪魔の代弁者」の存在が許せない組織風土

まず、最初にあげられるのは企業の組織風土によるものです。

トップダウンの風土はもちろんのこと、異なる意見・考え方をそもそも受け入れることに慣れていない組織も少なくありません。
そのような組織となると、前述した同質性の高い集団が集まる組織となり、意思決定のクオリティを高めるどころか、代弁者の役割を担う方が「異質な目」で見られます。
場合によってはパワハラなどの対象となり、存在しづらい空気を作り出してしまいます。

同じ価値観、同じ意見の方ばかりが集まり、常に反対意見がない(もしくは言えない)中で意思決定が進む状況では、意思決定のスピードは速まるものの、物事を多面的に捉えることが難しくなる可能性が高まります。
様々な立場のステークスホルダーとの関係で成り立つ企業としては、一方的な検証でのみ決定された事項は、時に脆く、リスク管理の観点でも不安定と言わざるを得ません。

このような問題はトップの考え方や、マネジメントの問題ともいえ、組織として取り組む課題であると考えられます。

理由2:「悪魔の代弁者」の役割を担える人材がいない

もう1つの理由は、組織に身を置く個人に代弁者としての役割を担える人材が不足しているということです。

前述のように仕事のクオリティを上げるための「悪魔の代弁者」とは、意思決定の際にやみくもに反対するわけではなく、きちんと根拠をもって反対することが求められます。
多くの人が支持する主張に反対するわけですから、「現在の課題を明確にし、他者を納得させる理由を見つけ、なおかつそれを的確に相手に伝えられる」というスキルが必要です。

偏った反論では、「個人の感情や私利私欲で発信している」「そもそもの主張が論理破綻している」などの指摘が起こり、単なる不満の主張とも捉えられかねません。
つまり伝える側の様々なスキルがかなり問われるという点が挙げられます。

間違って伝わってしまうと、組織からは疎ましく思われる危険性もあるのです。

 

​組織風土の改革には企業として「悪魔の代弁者」を受け入れられる風土づくりが必要になります。
つまり中長期の計画で企業として管理職の側から意識の改革を進めていく必要があります。

これについては、改めて別の機会に触れてみたいと思います。

今回はここから、個人のスキルとして「悪魔の代弁者」として必要なスキルは何かを深掘りしてみたいと思います。

■「悪魔の代弁者」を担う力をつけるには

前の章で「悪魔の代弁者」として必要なスキルがあるとお伝えしました。
「現在の課題を明確にし、他者を納得させる理由を見つけ、なおかつそれを的確に相手に伝える」ためには、様々なスキルが必要です。

しかし、中でも特に重要なカギとなる2つのスキルを挙げたいと思います。
それは「現状把握能力」と「現状を踏まえての展開力」2つです。

現状を把握する力に必要な「論理的思法:ロジカルシンキング」

まず、「現状把握能力」ですが、その言葉の通り、現状を正しく客観的に認識する力です。
この現状把握能力を生むのは、筋道を立てて考える力「ロジカルシンキング(論理的思考法)」です。

現状把握とは自分のみたままを理解することを指すのではありません。
それでは、まだ「主観」の状態から抜け出せていません。
事実(情報)を客観的、かつ妥当性を持って整理し言語化できることが重要なのです。
複雑に絡んだ問題をカテゴリごとに分解し整理を行い、問題へアプローチします。
さらにアプローチによって情報整理を行い、その整理の結果から仮説を立て、情報を分析・検証し、最終的な結論を導き出します。

このように「現状把握能力」には「論理的思考法:ロジカルシンキング」が、なくてはならない思考法です。

現状を踏まえての展開力に必要な「批判的思考法:クリティカルシンキング」

しかしながら、現状把握能力だけでは十分とは言えません。
なぜなら、「悪魔の代弁者」は「本当にそうだろうか?」という前提を疑う視点が必要になるからです。

このように前提を疑う思考法を「批判的思考法:クリティカル・シンキング」と呼んでいます。
これは目の前にある事象や情報を鵜呑みにせず、「本当に正しいか?」の視点を持ち、考察の結果、結論を導き出すことを意味しています。
単に目の前の事象を批判的に捉え、あれやこれやと批判するという意味ではありません。
つまり、ロジカルシンキングとの違いは「前提を疑うか疑わないか」その「事象に向かい合う姿勢」に違いがあります。

ロジカルシンキングでは「MECE」や「ロジックツリー」という解を合理的に導き出すことに役に立つフレームワークをつかいます。
一方、クリティカル・シンキングでは、その解の合理性に目を向けるだけでなく、「目的」を意識するという姿勢が重要です。
クリティカル・シンキングを始めると様々なところから意見、主張が飛び交います。
これは、前述した侃々諤々な意見交換に近づいており、非常に良い状態ですが、事象にばかり(問題にばかり)目を向けてしまうと、何を議論していたのか、どこに向かっていたのか、分からなくなってしまいます。

そこで「現状把握まではロジカルシンキングで考える」→「その後展開は目的を意識し、クリティカルに考える」この組み合わせの思考方法こそが、「悪魔の代弁者」としての「現状把握能力」と「現状を踏まえての展開力」としての思考法であると考えます。

本来であれば、このような「悪魔の代弁者」を担う人材が、忌憚のない意見をのびのびと伝えらえる組織が理想です。
ですが、前述のように組織の大小にかかわらず現実問題としては、難しい現状があると思います。
ただ、「誰に向けたサービスなのか」「誰のために仕事をしているのか」「何をもって会社は存在しているのか」など、目の前の事象だけでなく、企業の存在価値を常に意識する従業員が増えれば、自然と「悪魔の代弁者」の存在を企業としても受け入れ、重要だと認識できるのではないでしょうか。

組織の長の方はぜひこのような企業風土の醸成を目指して頂ける様に。
従業員の方は、自らのスキル向上で組織にイノベーションを起こす勇気を持っていただけるように。
そして既に代弁者の役割を担っておられる方はパイオニアとして益々活躍していただけるように。
それぞれのお立場で本テーマをと向き合っていただけることを願いながら、今回のコラムを締めくくりたいと思います。

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