人材開発コラム COLUMN
ハラスメント防止に向けて~アンコンシャス・バイアスを意識する~
2020年09月25日
多くの企業様では、2020年下期がスタートしています。
上半期はコロナ禍の影響により、いつもの半年とは違った企業様がほとんどではないでしょうか?
そして働き方や生活様式だけでなく、多くの方にとって、目に見えない価値観の変化、多様化が急速に進んだのではないでしょうか。
もともと日本人は、「1を聞いて10を知る」「空気を読む」「忖度」など、言葉で伝えなくとも「察する」ことが美徳とされてきました。
これは小さな島国で培って来られた、他国に例を見ない素晴らしい文化でもあります。
しかしながら、多様化する現代において、「いわなくてもわかる」「みんなそう思ってる」「普通に考えればこうだ」というこれまでの「暗黙のルール」が、相手の意図することと乖離する現象が起きつつあります。
これが、社内におけるミスコミュニケーションやハラスメントの原因になつながります。
今回は、これらの根底にある「無意識でのモノの見方やとらえ方の歪みや偏り:アンコンシャス・バイアス」について深堀りしたいと思います。
■「無意識の思い込み」アンコンシャス・バイアスとは
アンコンシャス・バイアスとは、相手のことを「無意識」のうちに決めつけてしまう偏った思考や偏見のことです。
その偏見は、その人の過去の経験や育った環境、友人や親、兄弟から受けた影響などが根拠になっており、まさに「無意識」の認知や判断のことなのです。
そして、それは何気ない言動として現れるものです。
そのため、本人は無自覚のため、よほど意識しておかないと気づくことはできないものです。
一番身近でわかりやすい言葉で紹介すると「女らしく」「男らしく」「母親らしく」「若者らしく」「子どもらしく」「大人らしく」などなど…
どの一言も、実際それぞれが意味するものを、具体的に説明しようとすると、十人十色となることは間違いありません。
それぞれの経験や育った環境が違うので、違って当たり前で、自分自身だけの問題であれば、さほど気にすることではないと片付けてしまいがちです。
しかしながら、組織の中においては、この「アンコンシャス・バイアス」が、意図せず部下のモチベーション低下につながるケースやハラスメントに発展する可能性を秘めています。
■「良かれ」と思った配慮も、時にはハラスメントの原因に
ここで具体的な例を挙げてみましょう。
とある企業の女性社員Aさん。出産を終えて、育休復帰が決まっています。
そこで、上司が女性の体を気遣って、良かれと思って以下のように配慮をしたとしましょう。
これはあくまでも上司の推察。
上司の経験をもとにした考えであり、本人の意思や状況を確認したものではありません。
しかし、実はこのとき、女性社員Aさんの気持ちはこのようなものでした。
幸いなことに、このケースでは、ヒヤリングをきちんと行うことで、大きな問題にならず、良い方向に進みました。
しかし…もし、ヒヤリングができていなかったらどうなったでしょうか?
上司の「アンコンシャス・バイアス」により、「きっと無理だろう」と決めつけて、様々な機会を与えなかったとしたら、その社員のモチベーションは低下することは明らかですし、成長や昇進の機会を奪ってしまうことになりかねません。
どちらも仕事に対してポジティブな気持ちであるのにも関わらず、お互いの意思表示を明確にできていなければ「ハラスメント」と認識される可能性も大いにありました。
このようなことは、皆さんの職場でも耳にしたりしませんか?
本人のことを気遣い、良かれと思った配慮のつもりが、本人の意思を無視した決定となる。
これこそが「無意識の偏見」なのです。
場合によっては、一つの気軽な判断が大きな問題に発展するようなことになる可能性も十分にあります。
■無意識の偏見は、一歩踏み出すことで刷新できる!
人は日々さまざまな偏見(バイアス)で人や物事を見ています。
厄介なことに職場だけでなく、家庭や学校にもこの「無意識の偏見や思い込み」は存在しているのです。
皆さんはこれまでに、相手のことを直感的に「なんとなく好きじゃない」「なんとなく苦手」と思ったことはありませんか?
まさにこれらは、「アンコンシャス・バイアス」が生み出しているものです。
最初にお伝えした通り、無意識の偏見や思い込みは、過去の経験や育った環境、また自分を取り巻く人間関係によって大きく影響を受けています。
また、育った環境などにより、家族や友人など、過ごしているコミュニティー内で受け継がれたり、影響を受け合ってしまうものなのです。
そのように長期間に植え付けられてきた、無意識の偏見や思い込みは、なかなか取り去ることが難しく、考えを改めるまでに長い時間を要するかもしれません。
しかし、先ほどの例のように、最初は苦手だなと思っていた相手であっても、何らかのきっかけに最初と全く違うイメージに変わったという経験はありませんか?
そのきっかけとは、相手と接点を持ち、相手のことを知る機会があったからではないでしょうか。
つまり「思い込み」や「決めつけ」を減らすことは、きっかけさえあれば可能なことなのです。
そしてそれには、会話をして本心やその人の背景を把握することがとても重要なのです。
■コロナ禍だからこそアンコンシャス・バイアスに要注意!
しかし、スマホの普及により、コミュニケーションツールがデジタルに変わった現在。
以前に比べて、対面によるコミュニケーションが減ってきました。
オンラインでのやり取りは、対面でのやり取り以上に、どうしても声だけ、文字だけなど表現が簡素化されてしまいます。
そこに加えて、このコロナ禍で急速に、新しい生活様式が普及し、「リモートワーク」「ソーシャルディスタンス」「蜜を避ける」など、対面でのコミュニケーションが困難な状況に置かれてしまいました。
これまで以上に「言葉」以外の情報が伝わりにくくなってしまいました。
つまり、不足する情報を補うために、無意識にアンコンシャス・バイアスを働かしてしまう可能性が高まるのです。
このような状況だからこそ、普段にも増して、相手との意思疎通には意識して「思い込み」や「決めつけ」を排除して臨む必要があるのです。
そうすることで、ハラスメントへの予防にもつなげることができます。
つまり、無意識の偏見を自身が持っていることを「意識する」、そして無意識の偏見を「排除する」よう努めることが大切なのです。
■オンラインでは意識して相手を観察することが大事
最初にお伝えした通り、「無意識の思い込みや偏見」は、誰にでもあります。
だからこそ、「自分が無意識の思い込みや偏見を持っている」ということを意識し、少しでもそれらを自分の中から排除していく努力が必要なのです。
そのためには、自分の思考のクセが、周囲にどのような影響を与えているかに気付くことがとても重要です。
すなわち「自己認知力」を高めるということです。
しかし、これまで長い間生きてきて身についたものですから、その思考を変えていくことに抵抗もあるでしょう。
また、時間もかかることだと思います。
ひとことで「思考を変える」といわれても、どこからはじめればいいの?と思う方もおられるかと思います。
そこで、とても分かりやすいアクションからはじめてみるのはどうでしょうか?
それは、まずは「自分を疑ってみる」ことです。
少し言い方を変えると、これまで「普通はこうでしょ?」とか、「これってこうするべきじゃないの?」と確信を持っていたことについて、「いや、違う見方をしたら、こういう考え方もあるかもしれない」「自分はこう思うけれど、相手は違う考えかもしれない」と思うことから始めてみるのです。
自分が嬉しいと感じたことは、相手も嬉しいと感じているかどうか、一度立ち止まって考えてみるのです。
そうすると今までよりも相手の表情や発する言葉など細かく観察するようになります。
自分の予想と違う「相手の反応」は、無意識のバイアスに気づかせてくれることでしょう。
特に直接対面できない、オンラインでのやり取りでは、得られる情報が少ないだけに、注意深く観察することが大切です。
このような思考や行動を通じて、相手の表情や会話の中での「間」を注意深く見る癖がつくと、たとえ画面越しでも今までの「偏った思い込み」から、相手の意を汲み取った配慮ができるのではないでしょうか?
そしてそれを言葉にするなどして確認するというステップも非常に重要です。
「意をくみ取った」と思っているのは、自分だけかもしれません。
あくまでも「自分」は「自分」でしかないのですから。
■自分で「意識」することが関係改善の第一歩
誰もが持っている「無意識の思い込み:アンコンシャス・バイアス」ですが、もちろん「ツーカーの仲」「いわなくても分かり合える」「よく気が付く」という風にポジティブな形で現れる場面も多くあります。
何もマイナスな面ばかりではないのです。
しかしながら、ビジネスシーンでは、前述の女性社員Aさんと上司の例のように、「無意識の思い込み」がハラスメントにつながるケースも多いので、要注意なのです。
みなさん、相手を「決めつけ」「自分の価値観の押し付け」してしまったことはありませんか?
そして結果的に、相手を不快にさせてしまった経験はありませんか?
無意識に発した言葉なので、なかなか本人は気づけないことが多いのですが、筆者も後から「やってしまった」と思うことがしばしばあります。
ここで、この「決めつけ」と「押しつけ」になってしまうフレーズを紹介します。
・普通はそうだろう…価値観の決めつけ
・そんなことできっこない…能力の決めつけ
・つべこべ言うな…解釈の押し付け
・これくらいできて当然…理想の押し付け
(参考書籍)「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない 守屋智敬 著 より一部抜粋
みなさん、これらのフレーズに聞きなじみがあるのではないでしょうか?
ついつい使ってしまいがちなフレーズではありませんか?
そうなんです。
みなさんの中には、誰にでもアンコンシャス・バイアスがあるのです。
だからこそ、否定するのではなく、自分自身が無意識的に行っている「決めつけ」や「押しつけ」を意識することができたらどうでしょうか?
意識することで、行動や言動を見直し、相手の価値観を尊重することができたらどうでしょうか?
きっと今よりももっと相手との関係にも良い変化が現れると思いませんか?
相手を変えようとするよりも、自分が変わる方がずっと得られるものは大きいのです。
■ハラスメントのない開かれた職場づくりへ
同じ日本語でコミュニケーションをとっていても、言葉のとらえ方は様々です。
職場の上司、部下の関係においても、この言葉の解釈のズレが原因で「どうして指示通りに動かないんだろう」「どうして分かってもらえないんだろう」と感情的になってしまっては、お互いに不快で不毛な時間を過ごすことになりかねません。
さらに、そのような継続的な解釈のズレは、ハラスメントにつながっていくのです。
良かれと思って選んだ褒め言葉でも、解釈の違いでハラスメントと認識されかねません。
だからこそ、職場の中でこの「無意識の偏見」を無くしていくためには、「無意識」から「意識化」に転換することから始まります。
「今のは、私の中の無意識の偏見かもしれない、自分の価値観を押し付けたかもしれない」と常に思うように意識していくことから始めるのです。
また、職場の人間関係の中においても、相手の表情、態度に違和感を覚えた時には、是非、ご自身の言動を振り返ってみてください。
何か思い当たる節が見つかるかもしれません。
そしてここで重要なのは、「無意識の偏見」は相手があってこそ気が付くことができるということです。
お互いにそういった偏ったものの見方をしていなかったか、「決めつけ」や「押し付け」をしてしまっていないか、話し合える風土を作っていくことが非常に重要です。
これを重ねていくことで、ミスコミュニケーションやハラスメントをゼロに近づけることはできるのはないでしょうか?
お互いに「自分の思い込みだった」とか「違う解釈をしていたよ」と、自由に話し合える職場になれば、無駄に相手にイライラしたり、不満を抱くことも減ることでしょう。
是非、この機会に、個々のアンコンシャス・バイアスに目を向け、意識してみてください。
そして互いのコミュニケーションで、気になることがあった時には、声を掛け合える職場づくりを目指しましょう。
(参考文献)「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない 守屋 智敬 著 かんき出版(2019年5月22日)