人材開発コラム COLUMN
貴社のOJT、現場まかせになっていませんか? ~企業と新入社員がWin-WinになるOJT~
2020年12月04日
2020年も残すところ1か月となりました。
今年は「東京オリンピックの一年」となるはずが「コロナ禍の一年」となりましたね。
特に、緊急事態宣言の発令などがあって混乱の状況に陥った春先。
本来であれば実施される2020年度の新入社員研修が、延期や急なオンライン化となるなど予定していた育成計画に大きな変更を強いられた企業様も多かったのではないでしょうか。
そして、まだしばらく続くと予想されるこのコロナ禍。
目前に迫った2021年の新入社員受け入れ。
特に、OJTに関しては「適宜、状況を見ながら現場で判断してもらおう」そうお考えの人事担当者の方も多いのではないでしょうか?
しかしながら、「新入社員の育成」を、とくに新入社員のトレーナーが「その場その場で対応」するのは、大変危険です。
せっかく獲得した新入社員の離職を促す結果につながりかねません。
実は、企業と新入社員双方にとって大変重要なOJT。
今回は、この重要性と双方がWin-Winとなる取り組み方についてご紹介したいと思います。
■企業の思いと新入社員の感覚のズレはここにある
世界でも珍しい、終身雇用が当たり前だったバブル景気以前の日本。
そしてバブル崩壊から約30年。
今では終身雇用は前提ではなくなってきています。
「新入社員の約3割が3年以内に転職を考えている(マイナビ転職2020年調べ)」という現代。
企業としても「じっくり時間をかけて新入社員を育てる」という時代ではなくなりました。
これまでは転職者に対して期待されていた「即戦力化」が、新入社員に対しても「早期育成と戦力化」が期待される状況となっており、企業としても「目まぐるしいスピードで教え込まなければならない社会的風潮」となってきています。
しかしその反面、当の新入社員に意見を聞いてみると、「ほめて伸ばす」「優しく根気よく教えてほしい」「じっくりと身につけたい」というような「短期的な成長よりも体力的・精神的にストレス(負荷)がかからないこと」を望んでいる傾向が強く出ています。
つまり、早期戦力化を求める企業側とゆっくり力をつけたいという新入社員の間には、大きな乖離があるのです。
特にコロナ禍で面と向かったコミュニケーションがとりにくくなっている今年。
採用活動から内定者フォローまでにオンラインでのやり取りが、例年よりも多い傾向があるため、想像以上に、その乖離が深刻化している可能性もあります。
企業側が一方的に望むペースや方法での指導は、時に新入社員にとって大きな負担となり、離職へのスピードを速めてしまう結果につながったり、パワハラなどの指摘を受ける可能性まで出てきてしまうのです。
■現場まかせのOJTトレーニングになっていませんか?
そもそもOJTとは、「On-the- Job-Training」の略で、言葉の通り仕事の現場で行われるものであり、実際に仕事をしながら行うトレーニングです。そして、それと対比して使われる言葉がOff-JT「Off-the-Job-Training」は座学での研修や訓練など現場を離れて行う教育のことです。
一般的にイメージしやすいのは、新入社員全体に共通する内容を座学でOff-JTで研修を行い、配属ごとにOJTで育成していくという形でしょうか。
Off-JTで知識、考え方や心構え、スキルの習得のためのトレーニングで知識としてインプットを行い、現場でOJTを通じて、学んだことをアウトプットし、さらにインプット・アウトプットを繰り返すことで「成長と成果」につなげていくのです。
つまり、Off-JTだけでも、OJTだけでも人は育ちません。
そして、ここで大切なのは、OJTとは「仕事をしながら先輩の様子を、見て盗む」なのではなく、トレーナーとなる社員が実際に仕事の現場の中で、仕事に必要な知識、技術、取組姿勢、態度、マナー等などを「計画的」「継続的」「意識的」に指導、支援することを指します。
では、それぞれの企業様でどのようなOJTプログラムを行われているのでしょう。
実際、私が企業様に訪問し、人材育成についてご相談いただく場面で、「御社の新入社員教育はどのようなことをされていますか?」とお尋ねすることがあります。
そこでよくいただく回答は、 「集合研修の後は、自社で、現場の担当者がしっかりOJTをやっています。具体的な内容については、現場の担当者がやっているので、全部は把握できていませんが。」 というものです。
つまり「現場まかせ」になってしまっていることが非常に多いという現状が見えてくるのです。
果たして、任されてしまった現場は、どのような状況なのでしょうか?
■コロナ禍でさらに後手に回りがちな新入社員教育
実際に、新入社員のOJTを任された現場で時々見られるのは
・配属部署の中堅的な社員や若手社員に特にトレーナーとして役割を持たせるわけではなく、なんとなく教えている
・人員不足だから(業務が多忙だから)マンツーマン指導は難しいため、その都度余裕のある者が指導にあたる
・特にトレーナーを決めず「手が空いた先輩社員が対応」する形で、複数の人が指導にあたる
というようなOJTの方法です。
これは、良く言えば、「従業員、みながOJTに関わることで新入社員を育てています。」となりますが、これは本当の意味で「みなで育てている」ということになるのでしょうか?
「NO残業」で「生産性向上」「業績向上」が求められる今の時代。
時間は無いのに、個々に求められる業務量は増える一方で、実際、現場は、自分のことで手いっぱいの社員が大半です。
指導にあたる先輩社員たちが「手が空いたら指導する」という認識では、どうしても新人の指導や育成の優先順は低く考えがちになり、結果として、適当にできる作業を与えておくだけのような事態になってしまうのです。
勿論、このようなOJTであったとしても「作業を通して仕事を覚える」ことには違いはありません。
ただ、ひとつの作業をまかせるにも、やはり事前説明や途中の進捗確認のための関わりがとても大切で、「作業を与えるだけ」「作業をまかせただけ」では人は育たないのです。
さらに今年はコロナ禍で、急なテレワーク環境となった企業様も多く、従業員の方々も急な変更、対応に追われる中、新入社員の指導・育成の面で「後回し」になった面が多くあったのではないでしょうか?
■場当たり的な指導を一番嫌がる新入社員
ここで、企業側の状況だけでなく、最近の新入社員の傾向も見てみましょう。
弊社が2019年の新入社員を対象に実施した意識調査で『理想は「指導力のある上司」と「相談しやすい上司」のどちらが良いか』という問いに、8割以上が支持したのは「相談しやすい上司」でした。さらに同じ調査結果から「仕事において何かを一人で成し遂げる」ことよりも、「周りと協力をしながら、またプライベートの時間も重視しながら、コツコツと仕事を極めていきたい」という希望が強いという傾向がみられていました。
(参考コラム:2019年の新入社員の傾向と指導ポイントについて)
また、過去のコラムでも紹介していますが、少し調べれば簡単に情報が手に入り、予習文化が定着している今の新入社員の世代は、場当たり的な対応をされることに不安と不信感を持ってしまいす。(参考コラム:新入社員はヒナ?~若者層の予習文化が新入社員研修のカギ!~)
つまり、企業側がこれまでとっていた「手が空いているひとが指導する」というOJTのスタイルは、まさに新入社員にとっては「場当たり的」と感じられ、受け入れ難いことなのです。
場当たり的な指導が重なると「自分は必要とされていない」「自分が選んだ企業は自分のことを大切に扱ってくれない」と、新入社員が感じてしまい、これが、早期離職に繋がる要因ともなっているのです。
そして、このような新入社員の動向は、就職活動を行っている後輩が知るところとなります。
場合によっては、SNSなどで就職活動を行っている学生に拡散され、次年度の採用活動にも影響が出てきかねません。
■新入社員の早期離職は企業の大きな損失
「業務は遂行しつつも、新入社員の指導を手の空いたスタッフが行い即戦力化を目指したい」という企業の側の思い。
「事前にゴールを聞かせてもらって、ゆっくり丁寧に自分のスキルを身につけていきたい」という新入社員の傾向。
このような乖離が大きければ大きいほど、早期離職を促す結果につながってしまいます。
しかし、新入社員一人の採用にどれだけの費用と労力がかかっていることでしょうか。
早期に離職されてしまうこと、これは組織にとって大きな損失でもあるのです。
コロナ禍で多くの企業が苦境に立たされる中、採用した新入社員の離職防止は企業にとって損失を防ぐだけでなく、その人材が将来的な益を生む人材へと育っていくことまで見据えると、人材育成は企業利益に重要な役割を担っているのです。
つまり、新入社員の指導は、「手が空いている人」が「その都度」「場当たり的に」行うものではなく、企業損失を防ぎ、利益を生むために計画的にする必要があるものだと、改めて認識されたのではないでしょうか?
新入社員教育は、決して疎かにしてはいけないことなのです。
また、OJTトレーナーその人だけの責任にしてしまってもいけないのです。
新入社員がどの人にも安心して質問できる環境を作ること、すなわち職場全体で取り組み、育て上げる必要があるのです。
このような取り組みこそが、本当の意味で「みなで育てている」ということになると思いませんか?
■効果的なOJTの組み立て方とは?
ではここで具体的に、どのようにOJTを組みたてていけばよいのでしょうか。
弊社では、OJTに求められることは次の3点だと考えています。
【1】意図的:どのような目的で行われるべきか認識をもったトレーニングの実行
【2】計画的:ゴールや目標から「逆算」した計画に基づいた、トレーニングの実行
【3】継続的:1度きりのトレーニングではなく、反復的、段階的なトレーニングの実行
PDCAという言葉はよく聞かれると思いますが、今はG-PDCAの考えの方が浸透してきています。
「まさにゴールからの逆算」です。
G-PDCAのサイクルにOJTのサイクルを当てはめて、具体的な研修サイクルをイメージしていきます。
前述の通り、時間も人員も足りないご時世で、特にコロナ禍となり多くの企業では時間も人員も、厳しい状況が続いています。
その中で、新入社員の気持ちをくみ取りながら「いかに早く育てて、あるべき姿=ゴールに到達させる」かは、ゴールが明確でなければ不可能なことなのです。
どのような業務にも必ず、納期や完成形があるはずです。
ここを明確にしておくことで、取組姿勢と気持ちは変わります。
また、人は今後何が起きるか分からない状態に一番敏感であり、また不安感が募るものです。
イコール仕事でのストレスの要因にもなり得ます。
ですから、まず第一に人事担当者や管理職が新人教育の大きなゴールを決め、OJTトレーナーを任命し、そのトレーナーにはトレーナーとしてのスキルを身につけさせることが重要です。
そして、スキルを身につけたうえで、OJTトレーナーが新入社員としっかりと関わり、一緒にゴールに向けた準備しながら進めていきます。
大きな手間をかけているかのように見えますが、結果としてこのような段階を踏むことが新入社員の「意欲の向上」「効率的な育成」「早期戦力化」につながるのです。
さらに、指導にあたったOJTトレーナーにとっても、自信につながります。
そしてさらに、「成長目標」があり、自分の仕事が価値を生み出しているという「貢献感覚」を持てると心理的にも良い状態になれるのです。
こういったことをSOC(Sence Of Coherence)センス・オブ・コヒアレンスと言います。
このSOCは「首尾一貫感覚」と訳され、ユダヤ系アメリカ人 アーロン・アントノフスキー博士が提唱した理論です。
これまでの「何が人を病気にするのか」という考え方から、「何が人を健康にするのか」に着目した初めての理論です。
「首尾一貫感覚」 つまり、自分の置かれている環境や状況に「納得できている」「腑に落ちている」という「満たされた感覚」にある人(を持てる人)は、ストレスに強く、健康な精神状態を維持できるという理論です。
もし、「何が起きるか予測できない」「何をやっても上手くいかない」「自分のやっていることには価値はない」など「不安感」「空虚感」や「自信喪失感」が先に立っていては、ストレスは溜まる一方ですし、何に対してもやる気など起きないのではないのでしょうか?
上図のように、「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」それぞれが満たされることが「首尾一貫感覚」につながります。
どんなに小さなことでも良いのです。
1つ1つの仕事は小さくても、それがつながり合って、世の中のどこかで役に立っているという感覚を指導者が与え、指導対象者が感じることができるのはとても重要なことなのです。
■OJTトレーナーがしておくべき準備と心構え
さて、話をもとに戻しましょう。
来春入社してくる新入社員の受け入れにに向けて、何から手をつければ良いか?
まずは、OJTトレーナーの養成からはじめましょう。
これまで述べてきた通り、OJTトレーナーの新入社員へ与える影響は非常に大きく、果たす役割は非常に重要です。
そのベースとなる「トレーナーとしての心構え」は必ず押さえておかなければなりません。
大切なことは3つ。
人に教えることは、これまでの自分のしてきた仕事の振り返りになる。また、どのように伝えたら理解してもらえるのか?
工夫することで相手に合わせたコミュニケーションスキルが向上する。
【2】OJTのゴールは何か知ること
業務を教えることだけがゴールではない。新入社員が組織に早く馴染めるよう支援することも重要。
【3】チームを巻き込んで育成すること
一人で何とかしようとするのではなく、他のメンバーの力を借りて全員で育成に関わること。チームで仕事をするという経験を積むことができる。
いかがでしょうか?
大切なことは、OJTトレーナーを任命するときに、上記のような動機付けを行っているかどうかがカギです。
動機づけを行っていないまま任命してしまうと「なんで私が?」とか「人に教えるのは苦手だから向いてないのに」「自分の仕事で手一杯だし」など、後ろ向きな気持ちを抱えたままでスタートすることになってしまうからです。
それは指導対象である新入社員に必ず伝わってしまいます。
トレーナー自身の成長にとてもメリットが大きいことを分かってもらうためにも、是非トレーナーを任命されるときの参考していただければと思います。
トレーナー養成に重点を置くことは、新入社員の早期戦力化にもつながりますし、間違いなくトレーナー自身の成長にもつながります。
さらに、就職活動にもSNSが重要な役割を担う時代、トレーナーの的確な指導や企業としての熱心な取り組みは、新入社員だけでなく、今後の新卒採用にも良い影響を与えます。
まさに、これまでお話したようなOJTの導入やトレーナーの育成は、企業と新入社員、双方にとってWin-Winとなるのです。
弊社では、OJTトレーナー養成の基本編は役割理解、心構えについて、応用編では、具体的な指導方法やモチベーションとストレスの関係などのテーマでお伝えをしています。
コロナ禍で働き方が変わってきた今となっては、新入社員教育のあり方にも変化が出てきています。
是非、OJT指導のあり方について一度見直しをしてみませんか?