人材開発コラム COLUMN
生き残りのために企業を変化させる変革型リーダー
~多様化する時代に求められる変革型リーダーシップ~
2020年05月25日
目まぐるしく変化する外部環境において、組織の中で変革型リーダーシップが求められる場面があり、昨今、その重要性が増しています。
そこで今回は、どんな場面で変革的リーダーシップが必要なのか、変革型リーダーにはどんな人物が求められるのかなどについて解説します。
■変革型リーダーシップとはなんのことか?
変革型リーダーシップとは、ノール・M・ティシーが1986年に発表した「変革型リーダーシップ理論」から生まれた言葉です。
変革型リーダーシップとは「生き残りのために企業を変化させることができるリーダーシップ」のことを言います。
もともと、高度成長期の右肩上がりの市場経済の中では、主にリーダーとはスケジュール管理などを行う、いわゆるマネジメントの役割を求められていました。
しかし、市場が円熟し、またニーズも多様化する現代において、これまでの流れをそのままに「変革できない組織」は時代の変化に取り残されてしまいます。
そこで求められるのが今回テーマに選んだ「変革型リーダーシップ」です。
企業を変革していくには「時代の変化や流れをしっかり見極めて、ベストなタイミングを判断したうえで実行する能力」や「企業が衰退している時に変革的なアイディアを提案して企業イメージを一新したり、業績の回復を図ったりする能力」が必要不可欠です。
また、提案をするだけでなく、周囲からの信頼を獲得し、賛同者を増やして組織全体が一つの目標に取り組める環境づくりを推し進めることも変革には欠かせません。
これらを実行できる能力を持った人材を変革的リーダーと言います。
■なぜ「変革型リーダーシップ」が必要なのか
大手企業をはじめとして、昔からのやり方を続ける保守的な企業が多いです。
しかし、昔からのやり方にこだわり続ける故に時代に適応することができず、大手でも時代に取り残されて倒産したり買収されたりする企業が増えています。
経営危機に陥った際、企業内改革を行ってV字回復を果たした企業はたくさん存在し、時代に遅れずに成長し続ける企業には変革型リーダーが必ず存在しています。
やはり企業を存続させていくためには保守的にならず、積極的に新しい挑戦をする必要があります。
しかし、それを実行するにあたって人からの信頼を得ることができない人がリーダーとなっても企業の変革が中途半端に終わってしまったり、周囲の賛同を得られなかったりするでしょう。
そのため、変革的リーダーシップをとることができる人材が必要となります。
■変革型リーダーシップで成功した過去の事例
ここで変革的リーダーシップをとることができる人材がリーダーとなったことで成功した企業の例を見てみましょう。
今では世界的な企業となったアメリカのIT企業・アップルです。
アップルの元CEOである故スティーブ・ジョブズ氏はIT業界におけるカリスマとして世界的に有名な人物でした。
アップルはジョブズが立ち上げた企業でしたが、あまりにも自由奔放すぎるジョブズの経営方針に幹部が抵抗し、ジョブズを追い出してしまいます。
しかし、後にアップルの経営が傾いた際にジョブズがアップルに復帰することとなります。
ジョブズは、今までアップルが販売してきたものとは違う起爆剤を探していました。
そこでジョブズが目を付けたのがmp3プレイヤーでした。 2001年に「ポケットに入るハードディスク」をテーマとしてiPodを発売します。
iPodは日本でも爆発的に売れ、2003年には違法ダウンロードを防止することを目的として、1曲単位で楽曲を購入できるiTunesを立ち上げます。
その後にiPodに携帯電話やインターネット機能を搭載したiPhoneを発売し、アップル製品は人々の日常に欠かせないものとなりました。
このように時代性をよみとり、革新的なアイディアをうんだことで、「変革型リーダー」の代表としてあげられます。
■変革型リーダーシップが必要になるのはどんなとき?
前述のように、変革型リーダーシップは基本的に企業が窮地に陥った時に必要となります。
業績が悪化した場合、今までの企業のやり方に問題があることが多いです。
そこで古いやり方にこだわっていれば、さらに悪化してしまうでしょう。
そこで業績を回復させるために問題点を洗い出し、その問題を解決できる新しいやり方を導入しなければいけません。
この際にも変革型リーダーシップをとることができる人材が必要となるでしょう。
次に、主力商品の大量リコールのような企業の信頼を損なう状況になってしまった時も変革型リーダーシップが求められます。
主力商品が売れなくなってしまった場合、主力商品に代わる革新的な商品を開発する必要があるでしょう。
その際は企業そのものの変革も求められることが多いです。
その他、企業が不祥事を起こすなどの窮地に陥った際に、改善するためには企業として抜本的な体質改善が必要であり、その際も変革型リーダーが必要となります。
継続的な企業の成長を考え、基本的に変革型リーダーシップをとることができる人材を外部から新たに迎え入れるよりも、すでに企業にいる人材がリーダーとなることが理想的とされています。
そのため、企業を存続させていくには変革的リーダーシップをとることができるリーダーを確保するだけでなく、リーダーの後継者を育てる環境も必要です。
■変革型リーダーを企業で育成する方法とプロセス
先ほど解説したように、強い企業であるためには変革型リーダーを育成することが大切です。
リーダーに憧れを持っている人は多く、誰もがリーダーを目指せる環境を用意しなければいけません。
そこでリーダーを育てる方法として納得性と公平性を重視した選抜制度を作るという方法が挙げられます。
この際における納得性とは実績など誰もが選抜内容に納得できる基準を評価対象とすること、公平性とは誰でもチャンスがあることを意味します。
日本の企業だとリーダーを選抜するにあたって早い段階である程度候補者を絞ってしまう傾向があります。
しかし、そうすると選抜に漏れてしまった人がリーダーになるチャンスを失うこととなります。
そうならないために、早い段階でリーダー候補を選抜するだけでなく、実績を上げることで再度リーダー候補になることができる道も用意すべきでしょう。
また、選抜制度を設けるには事前の準備も必要です。
多い例として、部署や上司によって能力発揮の機会が失われてしまうことが問題視されています。
そうならないように、選抜制度を設けるにあたって、配属先などによってチャンスにばらつきが出ないように配慮する必要があります。
変革型リーダーに適した人物の条件 1:プレゼン力がある
リーダーになる人にはまずプレゼン力が求められます。
プレゼン力を持った人とは誰もがついていきたいと感じ、企業の中でも外でも存在感がある人と言えるでしょう。
プレゼン力を持った人は話し方や表情が自信に満ち溢れていて、人を惹きつけることができます。
そのため、周りの人からリーダーとして尊敬されやすく、組織を引っ張っていくポジションに向いていると言えます。
ただ、何の根拠も無しに自信に満ち溢れているだけではなく、しっかりと実力も身に付けている必要があります。
特にリーダーになる人に求められるのが話し方です。
リーダーとなると人前で話す場面が多くなります。
そこで説得力があり、誰でも理解できるような話し方が身についていないとリーダーのやりたいことが理解できずに変革が失敗に終わってしまう可能性があります。
したがって、プレゼン力には論理的な考え方(ロジカルシンキング)とプレゼンスキルが必要と言えるでしょう。
変革型リーダーに適した人物の条件 2:直感型である
変革を行う場合、新しいことに敏感に気づき、変えていくことが大切です。
しかし、考えすぎてしまうと、いつまで経っても計画を実行に移すことができません。
そのため、直感型であることもリーダーを選ぶ際に必要な条件でしょう。
直感型の人とは、感受性が豊かで、時代の流れを的確にとらえ、何が求められているのか、また、これから何をすべきかを直感的に理解することができる人のことを言います。
特にひらめきを形にしたり、人に伝えたりする能力に長けている人は直感型と言えるでしょう。
世の中の動きをデータや分析結果だけでは予測することができません。
したがって、リーダーになるにはこれらだけでなく、様々な事象を幅広い視野でとらえ、必要に応じた柔軟な状況判断が直感的にできる必要があり、コンセプチュアル(概念化)スキルの習得が求められます。
変革型リーダーに適した人物の条件 3:危機に強い
先ほど解説したように、組織において変革が必要となる場面は基本的に危機的状況に陥った時と言えます。
そこで危機的な状況を回避するだけでは、現状維持のままで組織を良い状況に換えていくことができません。
そんな時こそ決断力と行動が必要です。
したがって、危機的状況に陥った時に慌てずに落ち着いて堂々と対処し、乗り切るための精神力を持っている人がリーダーに適していると言えるでしょう。
そのためには、リフレーミングやレジリエンス(逆境力)のスキルが必要と言えます。
■変革型リーダーシップのメリットとは何か?
変革型リーダーシップをとることができる人がリーダーになることで得られるメリットは様々です。
まず、業界で常に新しいことに挑戦し、企業としてその業界においてリーダーシップをとることができることがメリットと言えるでしょう。
また、プレゼン力を持った人がリーダーとなった場合、社員のモチベーションも上がります。
それに加え、変革的リーダーシップをとることができる人がいれば決断力をいかし、危機的状況に陥っても早い段階で方向転換をすることが可能であり、企業存続に繋がります。
■変革型リーダーシップのデメリットとは何か?
変革型リーダーシップにはデメリットもあります。
まず、変革型リーダーシップをとることができる人材を育てるには採用の段階である程度素質を持った人を見抜かなければいけません。
プレゼン力や直感力などは生まれ持った面や育った環境が大きく、育成には時間とコストがかかるため、企業の体力も問われることから、ある程度余裕がある企業でないとリーダーの育成は難しい側面があります。
■リーダーシップとマネジメントを混同しない
変革型リーダーシップのスキルを持った人材を育てるにあたって「リーダーシップ」と「マネジメント」を混同しているケースは少なくありません。
変革をする際には、もちろんマネジメント能力も求められますが、マネジメントとリーダーシップは別物であり、勘違いしてはいけないでしょう。
まずリーダーシップとは目標に向かって組織を束ね、自発的にメンバーの方向性を定めたり導いたりしながらメンバーのモチベーションを上げる人のことを言います。
この能力は経営者や部署長に問われる能力であり、リーダーシップをとることに長けた人は誠実性とプレゼン力がある人物が多いです。
それに対してマネジメント能力とは分析や管理を行い、目標に向けて組織の活動をうながす能力のことを言います。
目標を実現するための手段を考えたり、管理したりするので、計画的で冷静な判断能力が必要なポジションと言えるでしょう。
したがって、リーダーシップをとる人をリーダー、マネジメントを行う人をマネージャーと言いますが、日本においてはリーダーとマネージャーが同じ扱いになることが多いのも事実です。
しかし実際はマネージャーが計画を立て、リーダーが現場にいる人間をまとめてその計画を実行することとなります。
このようにリーダーとマネージャーでは求められる能力も役割も異なることを理解しておきましょう。
■変革型リーダーを作るには適切な人材教育が必要
変容を遂げる市場経済の中で勝ち残り、企業を存続させていくためには、変革型リーダーシップを発揮できる人物を採用や育成が不可欠です。
変革型リーダーシップに関しては生まれ持った素質の面が大きく、採用段階で素質を見抜くことも大切ですが、後天的に身につけていくことも可能だと考えます。
素質を持った人材が才能を発揮できるような機会創出と、 人材教育も重要であり、企業が変革型リーダーシップをとることができる人材を育てる環境を整えることが企業の存続に繋がっていくと言えるでしょう。