いまさら聞けない「ダイバーシティ(多様性)」が注目されるワケ

2023年09月20日

つい先日発表された第2次岸田再改造内閣の発足。
今回は女性議員の過去最多に並ぶ女性5人の入閣となり、「時代の象徴」とも言われています。
SNSやスマートフォンが普及し、世界の出来事や人々、さまざまな情報とも指先一つでつながれるこの時代。
「ダイバーシティ」「多様性」という言葉が当たり前のように使われています。

そこで、今回のコラムでは、改めて組織における多様性の重要性と、その多様性を活かせる組織づくりのための基本的な考え方についてお伝えしたいと思います。

■ジェンダーギャップがまだまだ大きい日本の現状

2023年6月、「世界経済フォーラム(WEF)が発表した日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中125位で前年の116位からさらに順位を下げた」とニュースで取り上げられたことは皆さんの記憶にも新しいことと思います。
このジェンダーギャップ指数は男性に対する女性の割合、つまり「0」が完全不平等、「1」が完全平等なことを示します。
以下がその結果をまとめたグラフですが、日本は「教育」「健康」の分野においては、いずれも0.9以上の高い値を示していますが、「政治」「経済」の分野では半分もしくはゼロに近い非常に低い値となっています。

また、今年は日本が議長国を務めたG7サミットに合わせて、G7男女共同参画・女性活躍担当大臣会合が6月に栃木県日光市にて開催されましたが、各国女性の大臣が参加する中で、議長国である日本だけが男性の大臣が参加したことに対し、SNS上でも各国大臣の集合写真を取り上げて様々な感想や意見が書き込まれ、賛否両論に分かれました。

2016年4月に、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下「女性活躍推進法」と記載)が施行されて以降、特にジェンダーギャップの大きい政治経済界においては男女割合のアンバランスさに注目が集まっています。

例えば、 政界では、衆議院議員に占める女性割合は10.3%(2023年8月時点)、参議院議員は26.7%(2023年8月時点)ですが、G7加盟国の女性議員比率が平均約30%となっている中で、OECDやG7加盟国では最下位という数値です。

ビジネスの世界では、女性の有業率は年々増加しているものの、非正規雇用で働く女性が56.0%(男性非正規雇用者22.8%)を占めています。

また依然として企業における女性管理職の割合が、部長級が8.2%、課長級13.9%(厚生労働省調査)と低い水準に留まっています。
それらの影響から男女の賃金格差も開いたままです。

■年々加速している「女性活躍」の取り組み

ここ数年で大きな法律改正もありました。
一つ目は、2021年6月に金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンスコードを改訂し、女性を含めた多様性の確保についての方針を上場企業に開示するよう求めたことです。
そのため多くの大企業で、女性管理職や女性役員の登用の動きが加速し、女性リーダー育成に関する研修が盛んに実施される、という動きが目立ちました。

二つ目は、2022年4月の女性活躍推進法改正により、女性活躍に関する情報公開の対象がこれまでの301人以上の企業から101人以上300人以下の事業主まで拡大されたことです。
これにより、私たち多くの中小企業も以下の対応を迫られるようになりました。

【対応内容】
(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
(2)その課題解決にふさわしい数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
(3)自社の女性の活躍に関する情報公表

 ※厚生労働省 令和4年1月発表・改正女性活躍推進法に関する資料より

実際、私がさまざまな企業様から採用や人材育成に関するご相談をいただく中で、特にここ数年は

  • 男性ばかりの会社だったが、徐々に女性社員の採用実績を増やして、人材不足や市場の変化に対応していきたい
  • 能力のある人に活躍してもらう為、女性管理職を積極的に登用していきたい
  • これまでは男性しか実績のなかった営業部門へ女性を配置し、多様なキャリアパスを整備したい

などのご意見をよく耳にするようになりました。

「女性活躍」と言われて久しいですが、その重要性がメディアへの露出や法改正という形で、年々重要性を増していることが明らかです。

■多様性は「女性活躍」だけではない、でも「女性活躍」を避けては通れない

ここまで女性活躍について注目してお伝えしてきましたが、多様性についてお話すると、そもそも男女という2軸で分けることは、現代のジェンダーフリーの観点からどうなのか、という意見も出てくると思います。
ただしこの深刻なジェンダーギャップは男女を意識しない、というだけで今後も解消することはないと言われています。

また、人口の約半数を占める女性活躍の取り組みですら進まないのであれば、さらにマイノリティの立場にあるLGBTQの方や外国人、さらに今後日本が直面するシニア層の活躍に向けた取り組みは尚更困難になるのではないでしょうか。

女性活躍の取り組みは、多様性を進めるための一丁目一番地なのです。

■なぜ「多様性」が重要視されるのか?

それでは、なぜ女性活躍がこれほどまでに重要視されているのか、そして女性を含めた多様性の確保が必要なのか考えてみたいと思います。

従来の日本の産業構造が、少子高齢社会・IT化・グローバル化・労働者不足・世代間格差など多くの影響要因により、大きく変化してきたことはご認識の通りかと思います。
またアフターコロナの現代、私たちはさらに先の見通せない不確実性の高い社会に生きており、顧客ニーズや価値観の多様化により、これまでのように「画一的にモノを作って売って終わり」というビジネスモデルでは市場から受け入れられにくくなっているのが現実です。

これからの時代は、「多様化する顧客ニーズに対応するため多角的な視点で商品やサービスを企画し、提供し、売って終わりではなく顧客との継続的な繋がりを持ちながら事業成長させる」ということが企業には求められているのです。
その為には、女性を含めたマイノリティの視点をもってマーケット変化に対応し、多様な人材が活躍する組織づくりを通じて企業パフォーマンス向上・イノベーション創出を図っていく必要があります

ここで、無意識のバイアスによりターゲットである消費者のニーズを正しくマーケティングできず企画が進んでしまうリスクと、意思決定のプロセスに多様な人材が必要であることの分かりやすい事例をご紹介します。

無意識のバイアス(A社の企画会議の場合)

「30歳で2人の子どもがいる母親向けの新車のデザイン・機能を考える」をテーマにA社のある営業所の42名を性別・年代役職者別の7人ずつ6グループに分け、ワークショップを実施しました。
メンバーには顧客接点の無い技術者やマーケティング未経験者も多く含みます。
以下の表が各チームが出したアイデアです。

 

チーム属性 デザイン 機能・性能
50代・男性幹部 ピンク 運転しやすい
40代・男性管理職 ピンク 運転しやすい
30代・男性社員 ピンク

運転しやすい
小回りがきく

20代・男性社員 パステルカラー

運転しやすい
荷物がたくさん入る

30~40代・女性社員 汚れが目立たない色

UVカット機能
子どもを抱っこしたまま開閉しやすいドア
リラクゼーション機能

20代女性・社員

白やグレーシルバー

着せ替え機能

UVカット機能
開閉しやすいドア
アロマの香りがする

出典:「企業のダイバーシティ推進とイノベーション創出の関連性に関する考察」西田明紀 Japan Marketing Academy Conference Proceedings Vol.5(2016)

 

男性社員グループの多くが、ターゲット女性のニーズを「ピンクで運転しやすい車」と想定しているのに対し、女性グループは「汚れが目立たない色で、UVカット機能や開閉しやすいドア」等、実用面を重視しているのが分かります。

このケースのように、組織の中で顧客ターゲット層のニーズに合致する商品サービスが決定されるまでには、無意識のバイアス(=アンコンシャス・バイアス)を克服し、ターゲット層により近い属性を含めた、様々な視点と意見を取り入れながら対話をしていく過程が肝要であることを感じていただけたと思います。
さらに、例えば商品企画やマーケティング担当者にターゲットと同様の属性の方がいたとしても、その意見が反映・意思決定されるためには、管理職や経営層に人材の多様性が確保されている状態が必要であることも容易に想像いただけるのではないでしょうか。

今後の市場ニーズに応えていくためには、従業員が100人いれば100通りの視点と強みを活かして、対話をしながら意思決定をしていく必要があるのです。

■経営に必要な視点「ダイバーシティマネジメント」

そしてこのような多様性に対する取り組みは、今や企業の成長に大きな影響を与えており、採用など企業ブランディングの場面でも注目されるポイントとなっています。
多様性に注目した経営手法を「ダイバーシティマネジメント」と表現し、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげること」を意味します
ここで言う「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無などの外見的な多様性のみならず、宗教・信条、価値観、キャリアや経験、働き方などの可視化しづらい多様性も含みます。

多様な視点・意見が反映される組織づくりのためには、価値観の多様性を確保する必要がありますが、外見の多様性はその為の手段に過ぎません。
つまり、男女に関わらず、全ての人が本来持っている多様な価値観や意見が最大限認められる組織風土の醸成のために、女性活躍推進は経営戦略の一つでもあるのです。

実際、女性活躍が進んでいる企業ほど業績に良い影響を与えることを示す調査結果が散見しています。
特にここでは、その結果が如実に出ているわかりやすい資料ををご紹介します。
 

上記の調査結果から、世界では女性役員比率が高い企業の方が、株主資本利益率、売上高利益率、投下資本利益率 などの経営指標が良い傾向が明らかです。
このことから、女性活躍の推進を含め、ますます多様性への取り組みを推進することが、業績アップのためにも必要不可欠であることがわかります。

■「多様性を尊重する」から「多様性を活かす」組織づくりのために

ここまで、組織の中で多様性を確保することの重要性をお伝えしてきました。
今組織として取り組むべきことは、「多様な人材を配置して多様性を尊重する」ことにとどまらず「多様な人材を活かし、それぞれの能力を発揮することでイノベーションを起こす」ことなのです。

では、私たち企業は具体的に何に取り組めば良いのでしょうか。

コラムをご覧の皆様の会社では既に、育休中社員へのフォローアップや時短勤務制度、在宅勤務や残業時間削減など様々な制度づくりや取り組みを進めている企業様もあると思います。
ただし、「制度は導入したけれども、なかなか組織風土が変わらない…」とお悩みの方も多いのではと感じています。

 

■多様性を活かす「3割」の数字

2003年に内閣府の男女共同参画推進本部が決定した「2020年までに指導的地位における女性の割合を30%にする」という目標は、いまだ達成されていないことは前述のグラフでも明らかです。
しかし、この目標となっている「30%」という数値目標はどこからきているかご存じでしょうか?

これは、「組織において2つの属性がある場合、少数派の存在が30%以上に達しないと多数派による主導が変わらない」という「黄金の3割(クリティカル・マス)理論」が根拠となっています。
組織内で同属性の方が中で30%に満たない少数派である場合、「象徴」とみなされる傾向が強く、実力を発揮することが困難な状況に置かれるというものです。

例えば、

  • 取締役会で9名の男性取締役員、1名の女性取締役員が参加している状況で意思決定されようとする場面
  • 町内会で高齢者層7人、中年層2人、若手層1人という状況で意思決定されようとする場面
  • 子どもの小学校PTA会において、9名が女性保護者、1名が男性保護者として参加している場面

本来はそれぞれの意見の重さは同じであっても、少数派に置かれた立場の方が何か反対意見を発言する場合には、相当の勇気がいるのではないでしょうか。

多数決が採用されやすい組織運営や意思決定の場面で影響を及ぼすようになるのは、最低でも30%、できれば35%程度が必要という理論は、具体的な場面を想像してみていただければ分かりやすいと思います。

もし自社で、上述の女性活躍推進法改正に基づく行動計画を策定される場合は、あまりに飛躍した数字を設定するのは現実的ではありませんが、この理論のことを少し念頭に置いて考えてみていただければ、女性が「いるだけ」で「議論は深まらない」という状態にはなりにくいと考えます。

これは多様性を「尊重」するだけでなく「活かす」ためにも覚えておきたい理論です。

以下に、ダイバーシティ推進に成功した先進企業が実際に施策として取り組んできたものの一部を挙げてみますので、自社と比較してどうか、是非参考にしてみてください。 

■ダイバーシティ推進に成功した企業の取り組み例

ここで、ダイバーシティ推進に成功した先進企業が実際に施策として取り組んできたものの一部をご紹介します。
自社と比較してどうか、ぜひ参考にしてみてください。 

【ダイバーシティ推進に成功した先進企業の取り組みの例】

■経営指針、数値目標、体制
(対象:社長、経営企画、人事、広報IR)
・現状把握、数値化
・社長のメッセージ発信
■経営層のマインドセット(対象:取締役、役員、管理職)
・経営戦略への落とし込み
・管理職研修(女性人材育成)
・他社先進事例の共有

■従業員のエンパワーメント、エンゲージメント(対象:各層の女性従業員、ワーキングペアレンツ)
・女性役員、管理職候補研修
・ワーキングペアレンツのコミュニティ
■働き方改革、勤務制度整備(対象:全従業員、育児中・介護中の男女社員、若手社員)
・働き方改革(残業削減、有休取得率、在宅勤務)
・育児、介護両立制度
・若手層へのライフ&キャリアアップセミナー

※出典:『多様性って何ですか?』著者:羽生祥子 より一部抜粋

すでに「育休中社員へのフォローアップや時短勤務制度」「在宅勤務や残業時間削減」などさまざまな制度づくりや取り組みを進めている企業様もあると思います。
ただし、「制度は導入したけれども、なかなか組織風土が変わらない…」とお悩みの方も多いのではと感じています。

どんな制度でもそうですが、新しい仕組みを導入し浸透させるためには、経営トップからの強いメッセージとコミットメントが必要です。
また旧来の手法や風土に流れそうになっても、軌道修正をしていくための現場モニタリングも不可欠でしょう。

現在のダイバーシティ先進企業でさえ、10年20年と長い時間をかけて、何度も後戻りしそうになりながら組織風土を変えてきています。
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