人材開発コラム COLUMN
未来を生き抜くリーダーシップとは? vol.3
~今求められるサーバント・リーダーシップの考え方~
2020年03月23日
これまで「未来を生き抜くリーダーシップとは?」と題して、シリーズでお伝えしています。
Vol.1では、時代の遷移とともに、ピラミッド型であった組織の在り方自体が変わってきており、それによって求められるリーダーシップ像が変わってきていることをお伝えしました。
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Vol.2では、組織の中でも「個々の自主的なキャリア形成」が求められるようになり、リーダーの役割は「部下のためにどんな支援が必要かを考え、部下の能力をフルに発揮させるために何ができるのかを考える」「部下の成長を促すリーダー」が求められるようになっています。
これが「サーバント・リーダーシップ」という考え方であるということをお伝えしました。
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Vol3では、前回テーマに上がった「サーバント・リーダーシップ」について、理解を深めていきたいと思います。
■サーバント・リーダーシップは太陽の手法
イソップ寓話で有名な「北風と太陽」。
「どちらが強いか」という腕比べのために、旅人の上着を脱がせることを競った北風と太陽のお話です。
北風は風を吹かせて力づくで、旅人の上着をはぎ取ろうとします。
一方で太陽はポカポカと、旅人を照らします。
そしてその結果はご存じの通り、旅人は暖かさに包まれ、自らすすんで上着を脱ぎます。
まさにこの太陽のような役割が「サーバント・リーダーシップ」なのです。
NPO法人サーバント・リーダーシップ協会ではそのイメージを以下イラストで紹介しています。
(下図:NPO法人サーバント・リーダーシップ協会ホームページより)
組織で言うと、リーダーが「部下の行動変容を促すために支援する」という形をとるのがサーバント・リーダーシップのあり方です。
この考えを提唱した、ロバート・K・グリーンリーフ(1904-1990)はサーバント・リーダーシップをいかのように表現しています。
「真のリーダーはフォロワーに信頼されており、まず人々に奉仕することが先決である」と提言し、リーダーシップには高位な職権が伴うものではない。
■サーバントリーダーが大切にする5つのバリュー
NPO法人サーバント・リーダーシップ協会では以下のような要素が、「サーバント・リーダーシップ」には重要であると紹介しています。
- 個人を尊重する
- 導く
- サーブする
- 人の持てる力を引き出す
- 個人の成長へとつなげる
そして、最も重要な意識は、「リーダー自身がメンバーに関心を持つことである」と伝えています。
つまり、協働するメンバーのひとりひとりをしっかりと見つめ、その能力と可能性を把握し、信じ、導くというステップです。
誰にでも支援し、奉仕するわけではありません。
■日本文化に受け入れられやすいリーダーシップ
これまでのことで、サーバントリーダーは自らを主張し、自らがヒーローになるのではなく、部下やチームのメンバーである他者を活かし、ヒーローにする考え方であることがわかっていただけたかと思います。
つまり、自らが最前線に立ってミッションを遂行するのではなく、メンバーのミッション実現や目標達成のために助力し、助言し、支えます。
これは、「利他」や「謙虚さを美徳とする」精神文化が根付く日本において、非常に相性が良いリーダーシップのあり方です。
部下やチームメイトに対して謙虚に尽くすリーダーだからこそ、尊敬され信頼関係が強固のものとなります。
そしてそれがさらに協働するチームの力を引き上げるとともに、リーダーシップを発揮しやすい環境を作っていきます。
さて、ここからサーバントリーダーとしての役割を担うため具体的な行動として押さえておきたいポイントについて紹介していきます。
vol.2で、「サーバントリーダー10の属性」に触れました。
- 傾聴
- 共感
- 癒し
- 気づき
- 納得
- 概念化
- 先見力
- 執事役
- 人々の成長への関与
- コミュニティづくり
■サーバントリーダーに大切な傾聴力と共感力を磨け
傾聴とは、相手の話に耳を傾け、心を寄せることです。
相手が感じたこと、考えたこと、望んでいることを聞き、相手に話をさせることで、部下自身が内面を整理することが可能になります。
リーダー自身が答えを出したり、解決策を示すものではありません。
部下を信じ、内面を受け止め、部下自身が答えを出せるよう促すのです。
そしてその際に、リーダーは部下の心に寄り添い、その姿を態度でも示します。
これを共感的態度といいます。
相手の立場に立って相手の気持ちを理解し、それを「うなずき」や「あいづち」「アイコンタクト」などの共感的態度でも示すことが重要です。
このような形で、リーダーは、傾聴力、共感力を磨くことで、部下の気持ちや意見をより率直に引き出すことができます。
その上で、リーダー自身に何ができるのか、どの部分で役に立てるかを考え、道筋を立てることで、部下に対するより効果的な支援を行うことができると考えます。
そしてこのような部下との傾聴や共感の機会を作るためには、面談の時間を持つことは非常に有効です。
さて、部下をお持ちのみなさんは、普段どれくらい部下との面談時間をお持ちでしょうか?
■大切なのは互いに「納得」し「ゴールに向けて」協働する姿勢
そしてもう一つ「納得」も重要なキーワードです。
リーダーは「傾聴」「共感」で、部下の思いや意見を引き出し、受け止め、共感することを伝えました。
して、リーダーはチームとして、部下それぞれの個性を尊重しながら「ゴールに向けて」導いていかなくてはいけません。
相手にきちんと、説明し、理解を得て、腑に落ちるという「納得」のプロセスがあってこそ、共に「ゴールに向けて」進んでいくことができます。
この納得とは「権限に依らず、服従を強要しない相手との合意形成」のことを示します。
そしてこのような合意形成においては、以下の2ステップでの説明を心がけると良いでしょう。
- イメージの共有 まずはチームのメンバーに、組織の目標を伝え、それを意識付けるのに大切な「理念」「ビジョン」「コンセプト」など全体をとらえた「イメージ」を共有する。
- 具体的な目標(マイルストーン)を明確に表現する 部下の不安感を払しょくし、選択肢を与え、支援する体制を示したうえで、「明確な目標設定」「仕事の完成イメージ」「仕事の納期・工期・工数」などを具体的に共有、提示する。
この段階を経る中で、納得が得られていないところを振り返りながら、「権限に依らず、服従を強要しない相手との合意形成」を行っていきます。
■一方的なマネジメントスタイルに陥りそうなときは
「上司だから“答え”を常に出さねばならない」 「上司だから“解決”のため正しく導かねばならない」 などと考えるリーダーも多いのですが、このような考え方は、一方的なマネジメントスタイルにつながります。
前述のように、上長や先輩が問題解決のために率先して指示命令するのではなく、まず部下の考えを聴き、気持ちを聴き、想いを受け止めたうえで、ゴールに向けての道筋を示し、導きます。
時には、思うようにいかないこともあるでしょう。
具体的に指示命令し、支配型のリーダーシップでグループを指揮したほうが、効率よくゴールにたどり着くこともあります。
しかしながら、それでは個々の能力や創造力は伸びにくく、組織としての広がりや汎用性は望めません。
一方的なマネジメントスタイルに陥りそうになった時には、ぜひ立ち止まって、今一度俯瞰してみてください。
■具体的なリーダー像とは?
では、具体的なリーダー像とはどのような人でしょうか?
- 部下に求める内容を把握し、明確に伝えられる人
- 仕事の配分、ウェイトや目標は部下の自主的な申告や希望について話し合い決定できる人
- 定期的な面談の仕組みをもち、傾聴できる人
- 業務上のニーズと部下の主張を整合させる人
- 方向性は伝え、やり方は本人に任せられる人
- 部下を側面から支え、励まし、評価することのできる人
- コーチングなどのスキルを身につけた、キャリアのカウンセリングを行うことのできる人
このような人が、これまでにお伝えしたサーバント・リーダーシップを持った「任せて支援するリーダー像」につながります。
そして、企業としても、部下を持つ管理職、次期管理職の方々がこのような力を身につけていけるような教育体制を整えることも重要です。
そしてそのような力をつけた人材が、正当に評価される企業の人事制度も不可欠です。
ではこのようなサーバント・リーダーシップを持った人材が評価される人事制度が企業に整っているでしょうか?
■市場の遷移と人事制度の遷移のミスマッチ
1980年代まで、高度成長の波に乗り、日本の企業は終身雇用制と年功制に支えられ、日本型経営と人事管理は大きな成果をあげていました。
人事制度はピラミッド型で職能資格制度を基盤に組織が構築されている時代でした。
「24時間戦えますか?」というCMが流れ、トレンディードラマでは、最先端の流行に彩られた男女が、人生を謳歌していました。
ただ、現在は「働き方改革」、「多様性」が求められ、市場変化が激しい時代に変わりました。
その中で求められる人材は変化しており、そこに対応できる人材が評価できる制度が必要と考えます。
■今の時代だからこそ必要な、サーバントリーダー
現在、企業は多様な働き方を推進し、副業を認める企業も増えてきています。
女性活用を推進するためワークシェアリング、ジョブシェアなどが進み、従業員のキャリア構築は人事だけでは把握や管理ができなくなる時代に突入しています。
まさに今、人事を取り巻く環境は、大きく変化しています。
このような中で、個々の能力を生かしつつ、チームをまとめ、ゴールに向かうことのできるサーバント・リーダーシップを持った人材が評価される人事制度が出来上がりつつあります。
そして今後は、さらなる労働人口の減少などが追い打ちをかける形で、加速度的にその変化が顕著化するでしょう。
雇用する側とされる側の関係性も変わり、社員は「自律型の個人事業主」のような存在へと変わりつつあります。
「外国人」や「短時間労働者」など、さまざまな役割のメンバーが入れ替わりにどんどんと入ったり出たりを繰り返します。
指示命令だけで部下を動かす時代は終焉を迎え、まさに今回ご紹介したサーバント・リーダーシップ型を取り入れたチームや、組織が高付加価値を生み出すことになるでしょう。
これは企業にとって大きな規範の変革です。評価の基準も大きく変わることになるでしょう。
だからこそ企業はサーバントリーダーの育成、評価に力を入れ始めています。
また、そのような評価制度が整備されている企業に、サーバント・リーダーシップを持った人材が集まるようになります。
貴社では、サーバントな精神を持った人材が評価されていますか?
求められるリーダーシップのあり方は、状況に企業が置かれている状況によっても変わります。
ぜひこの機会に、リーダーシップのあり方を見直してみてはいかがでしょうか?
■おすすめのセミナー
参考書籍
- 「サーバントリーダーシップ」ロバート・K・グリーンリーフ (著), 金井 壽宏 (監修), ラリー・C・スピアーズ (編集), 金井壽宏 (監修), 金井 真弓 (翻訳) 英治出版 (2008/12/24)
- 「サーバントであれ――奉仕して導く、リーダーの生き方」ロバート・K・グリーンリーフ (著), Robert K. Greenleaf (著), 野津智子 (翻訳) 英治出版 (2016/2/23)
参考サイト
- NPO法人サーバント・リーダーシップ協会 https://www.servantleader.jp/