ハラスメント防止法施行 今こそ、ハラスメントのない職場を目指す!

2022年04月19日

2022年4月、桜の開花とともに、新たな法が施行されたのをご存じですか?
2020年6月から大企業を対象に施行されていました改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が、いよいよ中小企業に対してもこの4月1日より施行となりました。
現段階では、ハラスメントに関する罰則規定はありませんが、改善が見られない場合は、企業名が公表されることが決定しています。

これに合わせて、弊社でも「ハラスメントに関する研修をしたい」というご相談を受けることが増えています。
各企業様で相談窓口を設置するなどの体制を整えることが求められていますが、それだけではハラスメントを減らすことができないのは周知の事実。

今回は、法整備をきっかけに今こそハラスメントのない職場環境づくりの第一歩をご提案します!

■いよいよパワハラ防止法が中小企業も対象に、抑止力になるのか?

冒頭でお伝えした通り、いよいよ中小企業に対して、改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が2022年4月1日より施行となりました。
これにより企業は、雇用管理上必要な措置を講じることが義務化されました。

各企業様におかれては、相談窓口の設置や社員教育など、多種多様な取組み進めてこられたのではないでしょうか?

では、果たしてハラスメント撲滅への抑止力になっているのでしょうか?

ここで、その現状を紐解くために、毎年厚生労働省から発表されている「民事上の個別労働紛争解決制度の施行状況」の結果から見ていきたいと思います。
これは、「総合労働相談コーナー」に寄せられる民事上の個別労働紛争相談件数をまとめたものです。
これをみると、数多くある相談テーマの中で職場における「いじめ、嫌がらせ」に関する、いわゆる「ハラスメント」に関する相談が圧倒的に多いことがわかります。

さらに、2020年から過去10年にさかのぼって、各相談テーマごとの件数の推移をグラフ化したものを見てみます。
すると、「いじめ、嫌がらせ」の相談件数が9年連続でトップではあるものの、2020年には前年比に比較して初めて-9.6%となり、10年目にしてやっと減少に転じていることがわかります。

その相談件数は決して少なくないものの、2020年から法整備が進められたことを考えると、この数字の変化は法整備の効果と考えても良いのではないでしょうか?
まだまだ相談件数としては圧倒的多数を占める「いじめ・嫌がらせ」の相談件数、これを減らしていくためにはどうしたらよいのでしょうか?

まずは改めて「パワーハラスメント」にあたる行為の定義を確認したいと思います。
すでにご存知ことだと思いますが、どのような行為がパワーハラスメントになるのでしょうか?

【職場における「パワーハラスメント」の定義】
 ・優越的な関係を背景とした言動
 ・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
 ・労働者の就業環境が害されるもの
 ※職場で行われる上記の3点の要素をすべて満たす行為がパワーハラスメントに該当します。
 ※客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は該当しません。

上記3つがパワーハラスメントの定義です。
※印の部分でも記載があるように「客観的に見て必要な指導」はハラスメントには当たりません。

■はっきりと示されている「パワハラ」にあたる言動

しかしながら、その線引きが難しく、部下育成や指導に対して消極的になってしまう先輩社員や管理職の方がいらっしゃるのも現実です。

ではここで、厚生労働省による具体的なハラスメントの言動についての分類を見てみましょう。
ハラスメントにあたる代表的な言動について6つ類型として以下のように提示しています。

代表的な言動の6つの類型
該当すると考えられる例
1.身体的な攻撃

 暴行・障害

・殴打、足蹴りをおこなう
・相手にものを投げつける など
2.精神的な攻撃

 脅迫・名誉棄損
 侮辱・ひどい暴言

・人格を否定するような言動をおこなう
 (相手の性的思考などに関する侮辱的な言動を含む)
・業務の遂行に必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う など
3.人間関係からの切り離し

 隔離・仲間外し・無視

・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる など
4.過大な要求

 業務上明らかに不要なことや
 すい遂行不可能なことの
 強制・仕事の妨害

・新規採用者に対し、必要な教育を行わないまま徹底対応する
・できないレベルの業務木目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
 など
5.過小な要求

 業務上の合理性なく能力や経験と
 かけはなれた程度の低い仕事を
 命じることや仕事を与えないこと

・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
・気に入らない労働者に対して、嫌がらせのために仕事を与えない など
6.個の侵害

 私的なことに過度に立ち入ること

・労働者の性的思考や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について
 個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する など

こうしたはっきりとした分類があることで、部下指導で悩まれている方にはわかりやすい指標になるのではないでしょうか?
また組織の中で指導するた立場に居なくても、だれもが社会の中ではパワーハラスメントをしうる立場になり得ます。
すべての階層の方に、知っておいていただきたい内容です。

■パワーハラスメント防止のための具体的な取り組み

前述のような指標をもとに、企業としては「パワハラに該当するような言動が行われていないか」を検討し、疑わしいものが発生した場合には「その言動の目的、言動が行われた経緯や状況等、様々な要素を総合的に考慮する」ことが必要となります。
また、相談窓口の担当者は、相談者の心身の状況やその言動が行われた時の感情や受け止めなど、その認識にも配慮しながら、相談者と行為者の双方から丁寧に事実確認を行うのがとても重要になってきます。

これらの「職場におけるパワーハラスメントを防止するために講じる措置」について厚生労働省が発表している資料から、企業として取り組むべきフローを改めてご紹介します。

1.事業主の方針等の明確化および周知・啓発(ハラスメントの防止)

・職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
・行為者について、厳正に処分する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発する   

  2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(ハラスメントの早期発見)                  

・相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
・相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応するようにする

3.職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応(ハラスメント発生時の迅速な対応)

・事実関係を迅速かつ正確に確認すること
・速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
・再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合を含む)

併せて講ずべき措置

・相談者・行為者等のプライバシー保護のために、必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
・相談したことなどを理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

なお、今回はパワーハラスメントをテーマにご紹介していますが、ここで重要なのは、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関しても、事象として単独ではなく複合的に生じることも想定し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが求められています

 

さて、このように企業として、ハラスメント防止のための体制整備をしたとしても、具体的な個々の社員の意識改革や取り組みなしにはハラスメントは防げません。
なぜなら「ハラスメント」と呼ばれるものが行為者にとっては「悪気のない無意識のもの」「良かれと思って行った(言った)」「必要と思って行った(言った)」ことであってもハラスメントにつながることがあるからです。

では、このようなことが起きないためにはどうしたらよいでしょうか?
ここからはハラスメントの発生にも防止のために、非常に重要な2つのキーワードをご紹介します。

■キーワード1:アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に気付く!

アンコンシャスバイアスとは、相手のことを「無意識」のうちに決めつけてしまう偏った思考や偏見のことです。
その偏見は、その人の過去の経験や育った環境などが根拠になっており、まさに「無意識」の認知や判断で、本人は無自覚のため、よほど意識しておかないと気づくことはできないものです。

「普通はこうだろう」
「みんなそう思ってる」
「いわなくてもわかるだろ」

みなさん一度は口にしたことがありませんか?
これらは全て「アンコンシャスバイアス」の上に成り立っているのです。

我々を取り巻く外部環境はめまぐるしく変化しています。
ここ数年に及ぶコロナ禍の影響で入国が困難な時期がありましたが、外国人技能実習生の受入れ再開し、多くの企業に多様な国籍や宗教を持った方が一緒に働く環境が増えてきます。
また「障がい者雇用の推進」「働くスタイルの選択肢も増加」「シニア層の活躍推進」など働く人の環境はますますの多様化しています。

あなたの思う「普通」は伝えたい相手と共通の「普通」ですか?
あなたの思う「みんな」はだれのことですか?
育ってきた時代、環境、宗教 などなどが違っても本当に同じように思いますか?

組織の中におけるハラスメントの引き金になるのはこの「アンコンシャスバイアス」であることが非常に多いです。
この「アンコンシャスバイアス」をなくすことは難しいのですが、自分が「アンコンシャスバイアス」を持っていることに気付くことは、ハラスメント防止に非常に重要です。

これを踏まえて「伝え方を工夫する」ことができるようになります

また、アンコンシャスを認識することは他者の「価値観」に触れることでもあり、自分自身を客観視する機会になります。

弊社の過去の記事にもこのアンコンシャスバイアスに触れていますので、ぜひこちらの記事もご一読ください。

■キーワード2:アンガーマネジメント「怒りの連鎖」を止める!

コロナ禍となって3年目となりました。
少しずつ日常を取り戻しつつありますが、まだまだ予断を許さない状況です。
人はこのような危機的状況や抑圧された環境に長く身を置くことで、ストレスフルな状況に追い込まれてしまいます。

そのストレスフルな状況の中で「不安」「不満」「疲労」など様々なネガティブな感情から引き起こされる二次感情が「怒り」となります。

では「怒りの正体」とは何でしょうか?
もともと「短気な性格」だからでしょうか?

そうではありません。
我慢や抑圧された状態に耐えきれなくなって「怒り」という二次感情として表出してくるものなのです。
「怒り」とはすなわち、その人が発する「メッセージ」や「リクエスト」であり、人間として当然の感情なのです。

人間として当然の感情であっても、時にこの「怒り」が、家庭内や職場で、理不尽に他者に対してぶつけられてしまうことがあります。
これがハラスメントにつながるのです。

「アンガーマネジメント」と聞くと「怒らないようにする」と勘違いされることがありますが、「怒り」の感情は人間として当然の感情の感情なので、消すことはできませんし、「怒りを我慢する」ということもオススメできません。

我々日本人はこの「怒り」の感情教育を受ける機会がこれまでありませんでした。
この「怒り」について学ぶことができたら、自分の感情のマネジメントすることができたら、ハラスメント防止につながります。

例えば、以下のイラストでイメージできるでしょうか?
何か不満に思うことが発生して、「怒り」の感情のままにその感情を相手にぶつけると、相手に伝わるのは「あなたが怒っている」という事実なのです。

実際、組織の中で業務上の怒り、例えば「遅刻してきた部下を叱る」「報告がなかったことを叱る」などは必要な「叱責」です。
しかし勢いのままに怒って「あなたが怒ってる」ことしか伝わらないと、行動の改善につながらない可能性が出てきます。
また行き過ぎた「怒り」は相手にとっての「恐怖」となりハラスメントとなりかねません。

このように怒りをコントロールすることを「アンガーマネジメント」といいます。
このアンガーマネジメントを学ぶことで感情をコントロールし、情緒が安定することで周囲との人間関係はより良いものに変わっていきます。
またハラスメントのない職場づくりにつながります。

■ハラスメントのない職場づくりは企業経営にも大きなメリット

ハラスメントが横行する組織では、生産性低下へ大きく影響を及ぼし、働く従業員の士気の低下はもとより、メンタルヘルスへの影響も大きいのです。

・離職者が多い
・メンタル不全を起こす従業員の増加
・新卒や中途採用で募集しても、悪い評判が広まっており応募してもらえない

などの悪い問題が多く発生しています。
これらのことを放置しておくと、当然業員の確保が困難になり、場合によっては企業側が訴えられるなど「健全な経営」は成り立たなくなります。

ハラスメントは人権問題です。
従業員の人権擁護に取り組むことは、企業の社会的責任です。

ハラスメントのない職場づくりのためには、以下の3つに取り組むことが必要であると考えています。

【1】従業員が相互に偏見や差別のない「人を大切にする」関係構築
【2】心的安全性の高い「誰もが安心して働き続けられる」職場環境
【3】従業員が「個性や能力を発揮できる」環境づくり

是非、この機会に企業として、組織の人権啓発活動として、組織内の体制整備はもちろんのこと、社員教育に取り組み、「誰もが安心して働ける心理的安全性の高い職場づくり」を目指しませんか?

ハラスメント防止に向けたおすすめの公開セミナー